本課題では,これまでに量子力学的効果がメタ表面の光物性に及ぼす影響を時間依存密度汎関数理論(TDDFT)に基づく第一原理計算を用いて解析してきた.TDDFTは電子の量子性を扱う上で有効な手法だが,計算コストが非常に大きい問題点を有する.具体的には金属ナノ粒子を構成する伝導電子全てをそれぞれ独立な電子軌道として扱うため,ナノ粒子のサイズが大きくなるにつれ計算コストが爆発的に増加するという点である.そのため,TDDFTにより計算可能な金属ナノ粒子のサイズは,世界有数のスーパーコンピュータである富岳を用いたとしても10nm程度に留まる.一方,実際の実験や応用面でよく用いられる金属ナノ粒子のサイズは数十nmであり,理論計算と実用におけるこのようなスケールの差異解消は急務だった. そこで令和3年度ではTDDFTに代わり,近年プラズモニクス分野で注目を集める量子流体理論(QHT)に基づく新しい計算手法・コードを開発し,粒径数十nm以上の金属ナノ粒子を計算可能にした.QHTは電子の集団的運動を流体として記述する理論であるため,TDDFTのように多くの電子軌道を必要としない.しかし,QHTはその基礎方程式中に数値的不安定性を持つ項が含まれるため,これまでに非線形光学応答現象への適用が制限されていた.そこで本課題では,QHTの基礎方程式から1軌道の有効Schroedinger方程式(ESE)が導出できることを示し,このESEを直接解くことで,TDDFTに比べ低い計算コストを保ちつつ数値的不安定性を解消できることを実演した.また,基底状態,線形応答,非線形応答のすべてにおいて, TDDFTとESEによる計算結果が妥当な範囲内で一致することを示した.本成果はOptics Express誌に掲載され,Editors' Pickとしてハイライトされた.
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