筋強直性ジストロフィー1型(Myotonic Dystrophy type 1、以下DM1)は、難病指定された遺伝子疾患であり、進行性の筋強直・筋委縮・筋力低下を引き起こす。一方でDM1は全身性疾患として知られ、深刻な中枢神経変性・耐糖能異常(糖尿病)などの病態を示し、これらの合併症が患者のQOLの低下・生存率低下を促進させる。本研究課題では、DM1の特徴である多臓器不全による全身症状のうち、中枢神経疾患に着目した病態分子基盤の解明と、疾患ゲノム領域 (CTGリピート配列) に特異的に結合する新規合成分子 (以下、PIP薬剤) の症状改善効果について患者由来神経細胞および疾患モデルマウスを用いて検討する。 本年度は、昨年度に引き続きDM1疾患モデルマウスを用いた解析を行った。具体的には通常リピート (CUG10リピート)と患者リピート (CUG300リピート)を発現できるアデノ随伴ウイルスを海馬CA1領域に感染させたマウスを用意し、PIP薬剤を脳内投与した際の薬理効果を解析した。適切な量のPIP薬剤の投与により、海馬CA1領域におけるCUG300リピートの発現減少が観測され、CUG300リピートの発現により誘導される神経細胞死を有意に改善できることが分かった。さらに電気生理・行動試験解析の結果、CUG300リピートの発現で再現された疾患様神経機能異常・行動異常が部分的に回復することを確認できた。これらの結果は、異常伸長したCTGリピートゲノム部位に特異的かつ直接作用することで異常CUG RNAの発現を減少させる薬理機構が、DM1を初めとする多くのリピート伸長病の治療薬開発に有用であることを示している。
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