本年度は昨年度に引き続き,成人自閉スペクトラム症者が就労訓練をおこなう就労移行支援事業所での参与観察,児童精神科医とのカンファレン スを中心に研究活動を遂行した。 参与観察では,自閉スペクトラム症者が同僚と協調して仕事を遂行することができない問題の一つに,これまでに学習してきた体験を状況に応じて想起することができないことが原因である可能性という研究の着想を得た。年度途中での研究機関異動のため,このテーマについては異動先の研究機関で遂行したい。 児童精神科医とのカンファレンスでは自閉スペクトラム症診断補助ツールの一つであるADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition)の陪席を中心に自閉スペクトラム症の評価について理解を深めた。また,自閉スペクトラム症だけでなく,関連する精神疾患についても理解を深めた。 研究成果の発表では,昨年度までに取得したデータの論文投稿や学会発表をおこなった。 論文投稿では,感情調整に関する論文が発達障害研究に採択された。この研究では,自閉スペクトラム症者は出来事を再解釈し前向きに捉えるといった適応的な感情調整方略の使用頻度が少ないことを明らかにした。そのほかに,想像と現実の区別であるリアリティモニタリング(例えば,鍵をかけようと思っただけなのか,実際に鍵をかけたかの判別)に関する実験結果を投稿し,現在査読中である。 同様の内容を国際学会にて発表した。
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