本研究では光合成の可視化装置を活用しダイズ変異体リソースと化合物ライブラリーを対象とした大規模スクリーニングを行う。これにより、高い光合成能力と水利用効率を両立する遺伝的機構を網羅的に解明し、節水条件で優れた生産性を示すダイズ品種の育成に向けた分子育種戦略のデザインを目指す。 前年度には96穴プレートを用いた独自のシロイヌナズナ土耕栽培システムを確立し、1万種以上の低分子化合物を対象としたスクリーニングによって光合成活性を高める作用を示す新規化合物の同定に成功した。本年度は、同定した化合物と構造が類似した類縁化合物の光合成への効果を検証し、光合成に作用を示す基本骨格を明らかにした。さらに、同定化合物はシロイヌナズナおよびレタスの光合成活性を高めるだけでなく、バイオマスを有意に増加させる効果を示すことを明らかにした。次いで、同定化合物とその類縁体の1種を処理したシロイヌナズナ個体を対象にRNA-seq解析を行った。これら2つの化合物の処理により共通して有意に発現量が増加する1つの遺伝子、低下する2つの遺伝子が同定され、これら遺伝子が化合物の作用機構に関与すると考えられた。特筆すべきことに、同定化合物はシロイヌナズナの乾燥耐性を飛躍的に高めることが明らかとなった。すなわち、本研究により同定された化合物は、植物の生産性および耐乾性を高める作用を有することが実証された。将来的に本化合物を活用して実用可能な薬剤を開発することで、節水条件における作物生産性の向上に資するものと期待される。
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