研究課題/領域番号 |
20J00615
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中原 浩貴 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 青枯病 / 塩ストレス / 耐塩性 / トマト / バイオコントロール / 病害抵抗性 / 複合耐性 / 有用細菌 |
研究実績の概要 |
植物の病害と塩害に対する複合的な対策技術の開発を目指しており、本研究では、有用細菌を利用した植物への病害抵抗性と耐塩性の誘導技術を効率的に開発するためのモデルを構築することを目的としている。初年度の研究では、1)トマトへの病害抵抗性と耐塩性を誘導する有用細菌株の探索と、2)塩処理栽培条件における細菌接種がトマトの無機成分吸収に及ぼす影響を調査し、主に以下の点を明らかにした。 1)潜在的な病害抵抗性と耐塩性が異なるトマト品種にトマト栽培圃場から分離した細菌株を接種し、青枯病に対する防除効果を発揮する菌株(病害抵抗性誘導菌株)と、塩処理栽培条件においてトマトの生育を向上させる菌株(耐塩性誘導菌株)をそれぞれに選抜した。その結果、青枯病の防除効果を発揮する菌株が1菌株得られ、さらに非塩処理および塩処理栽培条件におけるトマトの生育を向上させる数菌株が得られた。それらの菌株は植物生育促進因子(シデロフォア産生能、IAA産生能、ACCデアミナーゼ産生能、リン酸塩溶解能)の活性が高い傾向にあった。細菌接種による耐性誘導効果は品種によって異なり、細菌接種による病害防除効果は、潜在的な病害抵抗性が弱い品種よりも強い品種で高かった。一方で、細菌接種による耐塩性の向上効果は、比較的耐塩性が強い品種では低く、比較的耐塩性が弱い品種で高いことがわかった。 2)耐塩性誘導菌株を接種したトマトを塩処理条件で栽培し、根・茎・葉における無機成分(Na、K、P、Ca、Mg、Fe、Mn、Cu等)吸収量を調査したところ、根では地上部組織よりも細菌接種による無機成分吸収量の変化が大きく、細菌接種によってNa吸収は抑制されなかったが、KとP吸収は顕著に増加した。すなわち、本細菌接種による耐塩性向上の一要因として、植物組織内への直接的なNa吸収抑制よりも、KやPなどのイオン吸収の恒常性の維持が強く関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)トマトへの病害抵抗性と耐塩性を誘導する有用細菌株の探索 初年度の研究において、病害抵抗性誘導菌株と耐塩性誘導菌株がそれぞれに得られた。また、病害抵抗性と耐塩性を誘導する菌株探索において、実用的な菌株を効率的に選抜するために適したトマト品種があることがわかった。次年度の研究では、病害抵抗性と耐塩性を複合的に誘導する菌株を得ることを目標に、新たに分離した細菌株を用いて、トマトへの病害抵抗性と耐塩性の誘導能を調査している。 2)塩処理条件における細菌接種がトマトの無機成分吸収に及ぼす影響 耐塩性誘導菌株の接種によるトマトの耐塩性向上の一要因として、根における直接的なNa吸収抑制よりも、KやPなどのイオン吸収の恒常性の維持が強く関与することがわかった。 これらを総合的に評価し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(2年目)は、1)病害抵抗性と耐塩性を複合的に誘導する有用細菌の探索、2)耐塩性誘導菌株の接種によるトマトの生理活性および果実収量への影響について研究を実施する。 1)病害抵抗性と耐塩性を複合的に誘導する有用細菌の探索 初年度の研究において、病害抵抗性または耐塩性を誘導する菌株がそれぞれ得られたが、病害抵抗性と耐塩性を複合的に誘導する菌株は得られなかった。また、実用的な菌株を効率的に選抜には、接種するトマト品種の選択も重要であることがわかり、病害抵抗性と耐塩性が弱い品種を供試することで、細菌による耐塩性の向上効果が評価しやすく、高い病害防除効果や耐塩性の誘導能を有する実用的な菌株を選抜できると考えられた。そこで、次年度の研究では、そのトマト品種を供試して、新たに分離した細菌株の中から病害抵抗性と耐塩性を複合的に誘導する有用菌株を選抜する。 2)耐塩性誘導菌株の接種によるトマトの生理活性および果実収量への影響 初年度の研究において、耐塩性誘導菌株がいくつか得られたため、次年度の研究では、それら菌株を接種したトマトをハウス内に設置した塩処理土壌で栽培し、果実の収量・果実品質(果実成分)への影響を調査する。さらに、細菌接種による耐塩性向上の要因を明らかにするために、それら菌株を接種したトマトの耐塩性関連遺伝子の発現、抗酸化酵素の応答、無機成分吸収、光合成などの植物生理活性への影響を調査する。
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