本年度は、昨年度までに選抜した植物に耐塩性と病害防除効果の両方を付与する有用細菌A株と、病害防除効果のみを付与する有用細菌B株を供試し、植物に耐塩性と病害防除効果を誘導する有用細菌の作用機構を調査し、以下の事を明らかにした。両菌株は分子生物学的同定により人畜・植物への病原性が低い種のPseudomonas属菌株と近縁種であると推定された。非塩処理・塩処理条件における各菌株接種によるトマトの生育への影響を調査したところ、塩処理条件では、A株接種区で細菌無接種区と比べて草高、茎長、バイオマス量が顕著に増加した。A株はシデロフォア産生能、リン酸塩溶解能、ACCデアミナーゼ活性が高く、IAA産生能は低かった。B株はシデロフォア産生能とIAA産生能が高く、リン酸塩溶解能とACCデアミナーゼ活性はなかった。B株と比べてA株は植物組織内での定着能が高く、塩処理条件でも高密度に定着した。細菌無接種区では、塩処理によって葉面積、光合成速度および蒸散速度は顕著に低下したが、それらはA株接種区で顕著に増加した。また、塩処理条件においてA株接種区では、植物組織内のNa含量が高くなる一方で、K・P・Mg・Ca・Feの含量が顕著に増加したことから、耐塩性向上の要因には光合成関連因子および無機成分吸収の恒常性の維持が関与することが示唆された。 各菌株を接種したトマトでは、対照区の植物と比べて、青枯病の発病が有意に抑制された。根と葉では、有用菌株接種によっていくつかの病害防御関連酵素遺伝子および感染特異的タンパク質遺伝子の発現上昇が認められ、防除機構の一要因として植物への抵抗性誘導の関与が推察された。さらに、対照区、A株接種区、病原菌接種区、塩処理区のトマトのRNA-seq解析を実施し、有用細菌接種や病害ストレスおよび塩ストレスによって発現促進または発現抑制される遺伝子の発現パターンを推定することができた。
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