研究課題
自己意識について、1)脳腫瘍患者における主観指標の検討、2)非侵襲的脳刺激を用いたMRI研究を行った。1)自己意識の中でも「自分が行為を行っている」という実感が重要な要素として知られ、主体感と呼ばれる。精神疾患症状だけでなく、脳損傷によっても主体感が低減する。しかし主体感の神経基盤として、側頭頭頂接合部(TPJ)など中心的な領域があげられる一方、その他にも多くの領域が報告され、特定の神経基盤の解明には至っていない。そこで、主体感の低減を引き起こす脳領域を明らかにすべく、本年度以前に脳腫瘍患者104名を対象に取得した主体感の質問紙データを、腫瘍摘出前後で比較し、変化を検討した。その結果、頭頂葉、小脳に腫瘍のある患者において、腫瘍摘出前は障害されていた主体感の得点が、摘出後に健常者程度に変化した。この結果は、頭頂葉が主体感の中心的な役割を担うというこれまでの知見と一致する。また、小脳腫瘍患者における変化は、主体感を支える内部モデルの障害の可能性を示唆した。2)本研究では、主体感を定量化する心理実験中に経頭蓋電流刺激を行い、主体感指標の変化を検討することで、主体感の神経基盤を因果的に解明することを目的とした。今年度は、経頭蓋電流刺激によって脳活動が実際に変調しているのかを調べるため、健常者を対象に、右TPJをターゲットとして電流刺激中に安静時fMRI計測を行った。その結果、TPJ内の機能結合が高くなることが示された。また、TPJ内の機能結合を階層的にクラスタリングしたところ、刺激の有無である程度クラスタが分かれることが分かった。これらの結果は経頭蓋電流刺激によって脳機能が変化した可能性を示唆する。一方で、全脳の機能結合においても変化が見られた。これはTPJを含む脳内ネットワークの変化を意味し、主体感を含む脳機能を脳内ネットワークに帰して理解できる可能性を示唆する。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、脳損傷患者を対象に、主体感を定量化する心理実験を実施することで、主体感の神経基盤を明らかにすることを予定していた。しかし、現在の新型コロナの感染状況を踏まえると院内での実験実施は未だ難しい。そのため、一過性に脳機能を亢進したり、阻害(仮想的損傷)したりできる経頭蓋電流刺激を用いることで自己意識、特に主体感の神経基盤を検討した。今年度はこの研究を進め、十分な進展があった。またこれまで取得してきた脳腫瘍患者の主観指標についても並行して解析を進め、腫瘍摘出前後の主体感の変化を明らかにした点で十分な進展があったと考えられる。
健常者を対象とした非侵襲的脳刺激を用いた主体感の神経基盤の検討を引き続き進めていく。今後は、主体感を定量化する心理実験中に脳刺激を行い、主体感の変化を検討する。脳損傷患者を対象とした実験は、感染状況を踏まえ安全面に十分に配慮して上で、連携先の医師と相談し実施可能と判断された際に行っていく。
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