研究課題/領域番号 |
20J00716
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
矢菅 浩規 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 特別研究員(PD) (10844582)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 毛管現象 / 濡れ / 液滴 / 微細加工 / マイクロ流体デバイス / スケーリング則 / 置換現象 |
研究実績の概要 |
前年度の研究により、開毛管上での浸透・置換現象において浸透初期に浸透距離が時間の1乗に比例し後期には距離が時間の1/2乗に比例する傾向が確認された。2021年度は、前年度に引き続き開毛管上での浸透・置換現象の研究を行い、上記のような浸透距離の時間変化の詳細な理解を進めた。 具体的な実施内容として、まず、より再現性の高いデータを取得するため開毛管の長さなどの寸法条件と油の導入方法などの実験系の検討を行った。開毛管に関しては、流路長を大きくすることなどにより粘性の影響が観察しやすくなるような設計を適用した。流路長の延長に伴い流路表面の微小な凹凸で油水界面がピン止めされ、浸透が途中で止まる現象が頻発したため、凹凸が出やすい3Dプリンタを用いた直接的な製作からモールディングによる製作に切り替えることで流路表面に形成される凹凸を軽減した。また、流路長の延長に伴い油の供給量を増やす必要が生じたため、開毛管へのオイル供給機構を改善した。上記のような製作方法と実験方法の改善により、前年度に製作した開毛管より精度の高いデータを得られるようになった。実験には、異なる濃度のエタノール水溶液と異なる粘度を有するシリコーンオイルを用いた。 製作した開毛管を用いて実験を行い、取得したデータの解析を行った。解析において、閉じた円管内での水と油の間での浸透・置換現象に関する先行研究(J. Andre and K. Okumura, Langmuir, 2020)を参考にし、本研究で得られたデータに当論文で示されている浸透・置換現象に関する関係式を適用したところ、異なる粘度のシリコーンオイルを用いて行った実験で得られた浸透距離の時間依存性がおおよそ関係式と合うことが確認された。また、エタノール水溶液の濃度を変えていくと、直線の開毛管において液滴が生成される様子が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、前年度確認されていた浸透初期に浸透距離が時間の1乗に比例し後期には距離が時間の1/2乗に比例する傾向の解明に大きく近づいた。一般的に、毛管現象におけるこのような距離の時間依存性の変化は、慣性領域と粘性領域のクロスオーバーであるが、本研究では、別の法則に従っていることが示唆されており、物理学的にも新たな知見となり得る。また、液滴生成に関しても、エタノール水溶液の濃度を調節することで実現可能であることが示唆されている。これらの研究成果について、日本物理学会と関東ソフトマター研究会、アメリカ物理学会で特別研究員本人が発表を行うなどの成果を上げている。以上を踏まえて、本研究は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究により、浸透距離の時間依存性の変化の原因の特定に大きく前進した。今年度は、開毛管の平滑化のために製作方法の更なる改良を行い、本研究の目標の一つである非混和性2液体間での浸透・置換現象の包括的理解を目指す。また、前年度得られた液滴生成現象の知見をもとに、輸送機能と融合機能を開発する。さらに、液滴中でのバイオアッセイを通してデバイスの応用可能性を検討する。
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