本研究の目的は、ケニアの牛疫対策を事例として越境性動物疾病対策が策定され、実施される過程を分析することである。2年目に当たる令和3年度は、新型コロナウイルスの流行のため、予定していたケニアでの現地調査をおこなうことができなかった。そのため、代替的な手段として、現地の調査補助会社を通じてデータを収集した。具体的には、これまでフィールドとしてきたカジァド・カウンティにおいて、牧畜民のマサイを対象として過去の牛疫の流行時の記憶について聞き取り調査をおこなった。牛疫はもっとも危険な動物感染症のひとつであり、ヨーロッパ諸国では18世紀以降大規模な流行が繰り返されていたものの、獣医師の養成や国際会議の開催などの対応が整備された結果、20世紀初頭までにはほぼ撲滅されていた。それに対して、ケニアをふくむアフリカの国々に牛疫のウイルスが到来した時期は比較的遅く、その制圧にもより多くの時間がかかった。牛疫はケニアで19世紀末からたびたび発生し、2001年に最後の事例が報告されるまで、とくに家畜への依存度の高い生活を送っていた牧畜民に深刻な被害をもたらしていた。聞き取り調査では、過去のそれぞれの流行時に人々がどのように対処したのかを、とくに国家の介入への対応に着目しながら語りを収集した。 以上の研究の成果の一部については、5月に開催されたアフリカ学会学術大会と、3月に開催された科研研究会で発表をおこなった。
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