研究課題/領域番号 |
20J00751
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋村 秀典 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞運動 / 仮足伸長 |
研究実績の概要 |
本研究では、運動様式の異なる2種の細胞型へと分化する細胞性粘菌を用いて、重心移動はあまりしないが仮足を多く出す「探索型」、主に1つの仮足しか伸長しないが直進的な運動を行う「直進型」という、2つの仮足伸長様式が生み出される機構や、仮足形態の違いの生理的意義を明らかにすることを目的とする。本年度は、特に2種の細胞型の仮足伸長時における細胞骨格や、その制御分子の細胞内局在を調べるための測定系の確立を行なった。 2種の細胞型(予定柄細胞・予定胞子細胞)を区別する蛍光マーカーに加え、F-actinやミオシンなどの細胞骨格を標識する蛍光マーカー、活性化型RacやSCAR複合体の局在を可視化するプローブを作成し、それらを安定的に同時発現する株を確立した。また、細胞性粘菌の分化細胞は基質への接着が弱く、開放条件ではほとんど動くことができないため、1細胞分の高さの観察空間を持つ微小流路内に細胞を導入し顕微鏡下で挙動を測定する系を立ち上げた。これらを用いることで、各細胞型の運動形態や、細胞骨格などの分子の局在を詳細に測定・解析することが可能となった。 2種の細胞型の運動を比較すると、予定柄細胞は仮足やブレッブを細胞の様々な箇所から伸長するが重心移動はあまり行わず、一方で予定胞子細胞では、1つの仮足を細胞前端から伸長し続け、それによる直進的な運動が見られた。これらの細胞内では、先導端形成を促進するSCAR複合体や活性化型Racはほとんど局在が見られず、細胞骨格の細胞後部への局在が見られた。特に、直進的な運動を行う予定胞子細胞において、収縮端への細胞骨格の強い局在が見られたことから、2つの細胞型の間に見られる仮足伸長の様式の違いは、特に後部収縮に関与する分子の局在やその安定性よって生じる可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ拡大の影響で研究室での実験を行えない期間があり、その間に株の作成だけでなく実験技術の習得が行えなかったため、当初の計画よりやや進捗は遅れている。研究室での実験を再開してからは概ね予想していた速度で進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した細胞株・測定系を用いて、走化性時の細胞運動の方向性を詳細に調べる。これまでの測定に用いた微小流路に流速制御機器を組み込んだ灌流系を併用することで、観察領域内に走化性勾配を形成でき、さらに流速の変化により勾配の反転操作を行うことができる。これらを用いて走化性勾配反転時の細胞の運動方向変化という適応的挙動を細胞が行う際に、仮足伸長様式の異なる2種の細胞型の間でどのような違いが生じるか、またその際に細胞骨格やその動態を制御する分子がどのように局在するかを蛍光イメージングにより調べる。また、分岐路や行き止まりがある迷路状の流路を用いて、走化性物質の放出源である出口に到達するまでの時間や経路を2種の細胞型の間で比較することで、仮足様式の違いが外部環境の変化や障害物存在下での運動といった適応的挙動にどのように関与するかを検証する。 また、細胞1個分の高さしかない流路を用いた測定を行う過程で、分化細胞を高密度で流路内に導入すると細胞が集合した後に、細胞型ごとに別れた領域を形成するという、組織内で見られるような細胞選別を起こすことを見出した。この実験系は本来3次元的に行われる組織のパターン形成を2次元的に再現できるものであり、より生理的環境に近い条件で各細胞型の運動や仮足伸長の動態を調べることが可能となる。そこでこれまでに確立した各種蛍光プローブ発現株を用いて、細胞選別時の細胞型ごとの運動の性質の違いも合わせて調べていくことで、仮足伸長の様式の違いが形態形成において果たす役割についても検証していく。
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