研究課題
本年度は昨年度に作成・改良した蛍光プローブを発現させた細胞性粘菌(以下粘菌)の細胞株を用いて、組織内および組織単離細胞の運動を制御するシグナル分子の局在測定を行った。粘菌の組織内で見られる2種類の細胞型それぞれについて観察・比較すると、細胞骨格の構造・細胞形状に違いが見られた。一方で、PIP3や細胞接着分子など細胞運動や極性形成に関わる分子の局在パターンに明確な差は見られなかった。さらに、組織から単離した細胞を微小流路内に導入し細胞動態を調べたところ、細胞外シグナル物質の濃度や細胞-基質間接着状態の強弱など様々な条件で測定を行った。機械学習による画像処理および主成分分析を行なったところ、各条件間での運動形態の変化が細胞型により異なることがわかった。このような組織内あるいは組織から単離した細胞の仮足形態を制御する分子機構を詳細に調べるため、細胞骨格などを標的にした阻害剤を処理し、細胞形態への影響を評価する条件出しを行なった。また、単離細胞の微小流路内での観察実験では、灌流系を用いた走化性実験および勾配反転時の細胞挙動を測定するための実験系の立ち上げ・測定を行っている。さらに、微小流路内に高密度で組織から単離した細胞を導入することで形態形成を2次元的な環境下で再構築する実験系を用いて、組織内と同様のパターンが形成される際に2つの細胞型が異なる運動形態を取る過程を長時間イメージングにより捉えることに成功した。現在、そのデータを用いて運動や形態の時間変化、細胞集団内での相互作用に着目し解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
初年度はコロナ禍の影響でやや遅れがあったが、初年度に大部分を作成しさらに改良を進めていた蛍光標識株を用いることで測定・解析を順調に進めることができた。また、採択当初は予定していなかったが、昨年度に元々の計画と並行して実施した流路内での2次元的な形態形成再構築の実験系が確立でき、これまで3次元的な現象故に測定・定量的記述が困難であった組織内の各細胞の詳細な運動を捉えたことで本課題の問いである仮足形態の生理的意義について考察を深める測定データが得られた点も踏まえ、概ね順調に課題を実施していると言える。
昨年度から引き続き、組織から単離した細胞の微小流路内における測定を実施する。細胞外シグナル物質の濃度や細胞-基質間接着条件を変化させ組織内の状態を再現した状態での各細胞型の運動を測定・解析し、細胞型ごとの仮足形態の違いが単離状態でも生み出される条件を探索することで、仮足形態を決定する要因の解明を目指す。阻害剤処理下での測定や、細胞骨格の制御因子を標的にした蛍光プローブを用いた測定・解析を行うことで、仮足形態の分子的基盤に迫る。また、灌流系を用いた走化性実験により方向転換時の応答を詳しく調べていく。灌流速度の転換により走化性物質の勾配を反転させ、細胞の向き直りを誘発する実験系が組織単離細胞でも作動することを確認したため、この向き直り応答の速度やその際の仮足形態などに注目し詳細な解析を進めていく。 昨年度は画像解析手法の改善により、蛍光画像データからの細胞形状の解析や長 時間データにおける集団内の各細胞の追跡などが行えるようになったため、これまでに取得した流路内での形態形成の再構築過程を長時間イメージングしたデータを用いて、異なる仮足形態を示す2種の細胞が形態形成時にそれぞれどのように振る舞うか、運動速度や形状変化に注目して解析していく。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: - ページ: -
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 118(50) ページ: -
10.1073/pnas.2110281118