本研究は細胞性粘菌(以下、粘菌)を用いて、細胞運動様式の違いの生理的意義を明らかにすることを目指している。本年度は野生型の測定に加え、細胞変形に重要なMyosinⅡを欠損した株をCRISPR/Cas9により作成し、その変異株を用いた運動測定を行なった。これまで行ってきた核を指標にした細胞追跡による速度の定量に加え、機械学習を用いた細胞輪郭の自動検出法を導入することで、細胞形状の定量解析を新たに実施した。粘菌の組織内には運動様式の異なる柄細胞と胞子細胞の2種が存在するが、細胞型識別プローブと細胞骨格の蛍光プローブを用いた多色蛍光イメージングにより、野生型の組織内では柄細胞がF-actin重合による仮足突出を活発に行い、胞子細胞より速く移動することがわかった。しかし、Myosin欠損株では両方の細胞型において仮足突出が抑えられ、運動速度も低下していた。野生型では組織が細長く伸長することで形態形成をが進行するが、ライトシート顕微鏡を用いた測定により、この時に細胞が組織内で水平方向の回転運動から鉛直方向への移動を行い、同時に組織上部から見たMyosinⅡの局在パターンがらせん状から同心円状に変化することがわかった。MyosinⅡ欠損株はこの組織伸長が行えないことから、分化細胞の仮足形態の違いにMyosinⅡが重要な役割を果たし、またMyosinⅡによる運動・形状の制御が組織形成に重要な役割を果たす可能性が示唆された。本研究では多色かつ高S/N比での測定が可能な蛍光プローブを複数開発したが、そのノウハウの共有やプラスミドの他の研究室への分譲を行い、蛍光を用いた測定法についての論文も投稿準備を進めている。開発したプローブを用いることで、計50種を超える分子の分化細胞における局在パターンを明らかにしており、現在それらの局在の違いによる仮足形態・運動様式への影響の解析を進めている。
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