研究課題/領域番号 |
20J00817
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山下 大喜 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ナノチューブ・グラフェン / フォトニック結晶 / 光物性 / ナノ構造物性 / ナノ物性制御 / ナノマイクロ物理 / 単一光子源 / シリコンフォトニクス |
研究実績の概要 |
本年度は共振器・導波路に結合した単一CNT発光の検出に取り組んだ. 【研究①】導波路・共振器結合したデバイスの設計・測定 有限差分時間領域シミュレーションを用いて共振器と導波路の設計を行い,空気モードフォトニック結晶ナノビーム共振器の片側の穴の数を減らして光閉じ込めを弱めることで,光が一方向に導波するようにデバイス構造を設計した.導波路端から光を検出するために,共振器位置を導波路端から十分に離す必要があったため,長い導波路でも中空に浮いた状態にするような構造を導入し,半導体微細加工技術を用いてデバイスを作製した.また,顕微分光測定系を改良し,共振器直上と導波路端からの発光分光ができるようにした. 【研究②】デバイスの作成歩留まりの向上 CNTを共振器上に集積するために,共振器の付近に配置した触媒から化学気相成膜法を用いてCNTを成長させた.この手法では10種類以上の異なる発光波長を持つCNTが合成され,成長したCNTは共振器の直上に正確に位置している必要があるため,波長と位置の両方で共振器とマッチしたCNTデバイスの作製歩留まりは0.1%程度しかないことがわかった.また,中空に浮いた導波路は壊れやすく,綺麗な導波路端が試料側面に出ている必要があるため,数千個のデバイスを測定したが,全てを満たすようなデバイスの作製は容易ではなかった.この低い作製歩留まりを解決するために,最近,当研究室で開発された乾燥スタンプ転写法の利用を試みた.この手法は,化学気相成膜法を用いてSiO2/Si基板上にCNTを成長させたのち,スタンプを用いてCNTをピックアップしたのち,所望の基板上に転写することができる.これを利用し,あらかじめ特定の範囲の共振波長を持ち,導波特性の良いデバイスがある領域にCNT密度の高いスタンプを用いて転写した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度までに,研究計画の第一段階である,室温・通信波長帯におけるカーボンナノチューブ(CNT)からの単一光子放出を実証できたため,予定を前倒しして,共振器・導波路に結合した単一CNT発光の検出に取り組んだ.上記の方策を用いることで,単一のCNTを導波路に結合したシリコン微小共振器に集積することに成功した.CNTの広いスペクトルは抑制され,共振器によって増強された鋭いピークを持つ成分のみが導波路を通って放出されていることがわかった.これは研究計画の第二段階である,導波路端出力を備えたカーボンナノチューブ単一光子源の開発における重要なステップである.以上を踏まえて,研究計画の予定を前倒しして進捗が出ていることからも順調に研究が進んでいると考える.
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今後の研究の推進方策 |
【導波路端出力を備えたカーボンナノチューブ単一光子源の開発】 昨年度までに,1次元フォトニック結晶空気モードナノビーム共振器を用いたカーボンナノチューブ(CNT)の単一光子放出を実証し,さらに予定を前倒しして,共振器・導波路に結合した単一CNT発光の検出に成功している.本年度は導波路端出力を備えたCNT単一光子源の開発に取り組む. 昨年度までに分かったデバイス作製上の問題点として,低い歩留まりがある.本デバイスでは共振器の共振波長とCNTの発光波長,共振器の位置とCNTの位置が正確に一致している必要がある.化学気相成長を用いたCNTの合成では10種類以上の異なる発光波長を持つCNTが合成され,触媒からランダムな方向に成長するため,共振器と結合したCNTデバイスの歩留まりが0.1%程度になってしまっている. 本年度は,この問題を解決するために,フォトニックバンドギャップのバンド端モードの使用を検討する.これまではCNTの発光を増強するために共振器構造を用いていたが,バンド端モードでも同様の効果が期待できる.さらに,バンド端モードはフォトニック結晶構造領域全体で得られるというメリットがある.したがって,CNTの位置を正確に合わせる必要がなくなり,デバイス作製歩留まりの大幅な向上が期待できる. そのようなデバイスに対して,光子相関測定を行い,単一光子発光を実証するところまでを本年度の目標とする.すでに,従来の顕微分光測定系に,導波路端からの出射光をファイバー位置に調節できる光子相関測定系を構築している.また,CNTは基板と接触すると非輻射緩和が大幅に増加するため,基板の上に設置した高台の上にCNTを合成する触媒を配置することで,CNTを基板に触れないように架橋させる.
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