研究課題/領域番号 |
20J00836
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
新林 一雄 国際基督教大学, 教養学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | オーケストラ / ダルムシュタット / ドレスデン / 18世紀 / 交響曲 / バロック / 初期古典派 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1740 年から 1780 年におけるドイツのオーケストラが、交響曲の演奏を通して生み出した鳴り響きを明らかにすることである。令和2年度は、楽団員の①「名簿の調査」と②「楽譜の調査」に必要な資料を集めるためドイツに渡航し、帰国後に①を完了させ、その次に②に着手する予定であった。しかし、コロナ・ウイルス蔓延によって海外調査は不可能となったため、上記の予定を根本的に変更した。オンライン上で閲覧できる一次資料(楽譜)が比較的豊富なダルムシュタットとドレスデンの宮廷オーケストラについて、日本国内で②の調査を進めた。 ダルムシュタットに関する研究の内容は、次の通りである。この地の宮廷オーケストラのリーダーは楽長であった。その楽長によって筆写された交響曲の鳴り響きが、楽長自身によって作曲された交響曲に似ているか、あるいは異なるかを調べた。その結果、楽長が筆写した交響曲の鳴り響きは楽長自身が作った交響曲に類似するだけでなく、独自の響きも兼ね備えていると結論付けた。本研究の成果をまとめ、日本音楽学会の全国大会で発表した。ダルムシュタットは、18世紀ドイツにおいて交響曲を盛んに演奏した地域の一つであった。本研究は、そのダルムシュタットで生み出された交響曲の鳴り響きの解明に大きく貢献できると考える。 研究ではさらに、北ドイツに属するダルムシュタットとドレスデンの宮廷楽団を対象として、交響曲を演奏する際の楽器編成が類似するかを調査した。ドレスデン宮廷楽団が演奏に使った楽譜を調査した結果、この楽団はフルート、オーボエ、ファゴットを編成に含める傾向があった。このことは、ダルムシュタットの楽器編成と全く異なっていた。現在は、この違いが生じた要因を調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」に記した通り、今年度の予定は①「名簿の調査」を完了させ、次いで調査②「楽譜の調査」を開始することであった。①と②の調査は、いずれも海外での一次資料閲覧を前提としていた。 今年度はコロナ・ウイルス蔓延の影響で、海外での調査ができなかった。そのため、予定していた調査①を実施できなかった。調査②についても、インターネットを介して閲覧可能な一次資料(楽譜)は限られたため、研究できたオーケストラはドレスデンとダルムシュタットの二つの楽団にとどまった。 しかし、調査②では、可能な限り多くの楽譜を調査した。さらに、日本で入手可能な二次資料から得られる情報に基づくことにより、確実に成果を出すことができた。これらのことを通して、本研究の進度を上げ、研究目的(1740 年から 1780 年におけるドイツのオーケストラが、交響曲の演奏を通して生み出した鳴り響きを明らかにすること)を達成するための条件を整えることができた。具体的には、調査②について、研究対象であるオーケストラ13楽団それぞれについて、資料状況を詳細に把握できた。また、調査②の中で楽曲を分析する際に、重点的に分析する部分を定めることができた。 以上のことから、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では4種類の調査を行うことを計画しており、令和3年度は次に記す3種を行う予定である。調査①「各楽団の楽器編成の解明」(楽団員の名簿533冊から各楽器の人数を示す)。調査②「楽団ごとの響きの特性の解明」(演奏に使われた楽譜1388冊から分かる楽器の様々な組み合わせによる表現方法を示す)。調査③「演奏場所の解明」(各楽団の演奏場所の規模を把握)。 日本では調査②と③を進める。調査②では、調査対象とした作曲家の作品目録を参照する。その目録を基に、作曲家ごとの楽器編成を明らかにし、それぞれの作曲家が属したオーケストラの楽器編成の傾向を明らかにする。その傾向を示す交響曲の楽譜を入手し、その楽器編成の特性が楽譜に現れていることを指摘する。調査③では、オーケストラの絵画集と演奏場所の見取り図が載った書籍を参照し、各楽団の主な演奏場所の規模を把握する。そのことにより、それぞれのオーケストラの楽器編成が、互いに異なる要因を探る。 コロナ禍の状況が改善し海外への渡航が可能となった場合、ドイツにて調査①を行う。ドイツへの渡航ができない場合は、調査①の代替として、オーケストラを所有した君主の芸術に対する考えなどを、日本で入手可能な二次文献などから把握する。これらの調査により、各楽団の楽器編成の特性が生まれた背景を明らかにする。 以上の調査から得られる研究結果をまとめ、学会発表や論文投稿を行う。
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