本年は、岐阜県大滝鍾乳洞から採取された石筍OT02の分析により得られた研究成果を、国際誌Chemical Geologyにオープンアクセス論文として掲載した。石筍OT02は、63.5から34.8千年前と、8.8から2.6千年前の2期間の形成年代を持つ。本論では、同石筍の計66層準について炭酸凝集同位体(Δ47)組成の測定を行い、ヒプシサーマル期をピークとした完新世の温暖化や、ハンリッヒイベントに対応した寒冷化を、定量的な温度変化カーブとして復元できた。また、復元された温度情報と、石筍の安定酸素同位体組成から、過去の洞窟水の安定酸素同位体組成を計算した。数百年規模のタイムスケールの変動に着目すると、気温が高い(低い)時期に、同地域の降水の酸素同位体組成は重く(軽く)なる傾向が見られ、夏季・冬季アジアモンスーンの強度変化に関連した、気温と降水の共進化現象を解明できた。 この他、石筍古気候研究に関連する2件の国内誌論文に共著として参加したほか、国内の学会では筆頭として2件、共同発表者として3件の発表を行なった。 筆頭の学会発表のうち1件は、本研究課題を通して得られた複数の石筍測定データに基づく成果であり、2種の凝集同位体指標を併用し、石筍の炭酸凝集同位体組成に見られる非平衡効果を、定量的に補正する手法を報告した。 上記の成果公表に並行し、三重県産石筍の炭酸凝集同位体分析を行い、より長期の古気温データ復元を行なった。また、東北各県と鹿児島県徳之島の鍾乳洞調査を行い、新規の研究試料の採取も行なった。 石筍酸素同位体組成変動の解釈に重要な意味を持つ、降水の酸素同位体組成の季節性を観測するため、観測記録の乏しい静岡県静岡市と宮城県仙台市では、毎月の雨水採取を継続した。
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