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2020 年度 実績報告書

振動光物質強結合が及ぼす分子誘電性への影響

研究課題

研究課題/領域番号 20J00845
研究機関筑波大学

研究代表者

櫛田 創  筑波大学, 数理物質系, 特別研究員(SPD)

研究期間 (年度) 2020-04-24 – 2023-03-31
キーワード光物質強結合 / ポラリトン / 分子振動 / 誘電体 / 電気化学トランジスタ
研究実績の概要

分子振動と光共振器が共鳴することでコヒーレントな光と物質の混成状態を形成することを振動光物質強結合(VSC)という。近年、そのエネルギー変化の小ささにも関わらず、VSC状態において化学反応や結晶化、超電導など多岐にわたる物性に大きな変化をもたらすことが報告されている。本研究では分子の誘電率や相転移、熱伝導などのパラメータに着目し、VSCが与える物理的影響の本質を明らかにすること、また、後誘電体デバイスへと応用することを目的としている。
分子振動の固有周波数であるマイクロメートルほどの光を電子デバイスに結合させるためには、マイクロメートル程度の厚膜デバイスを実現させる必要がある。通常の有機電子デバイスは数十から数百ナノメータの厚みからなり、その厚みを増やすごとに駆動電圧が上がってしまう。本研究では、イオン液体を内包したパイ共役高分子ゲルをトランジスタの活性層に用いることで、マイクロメートルの厚膜であるにも関わらず、低電圧駆動(3.5 V-5 V)の新規トランジスタPIGTを開発した。このPIGTは、膨潤なイオン液体の量により、近似した動作メカニズムで動作する電気化学トランジスタ(OECT)と比較しても、応答速度が速いことが明らかになった(20 マイクロ秒以下)。本成果はAdvanced Materials誌に報告し、この成果を元に発表した応用物理学会にて講演奨励賞を受賞した。
その後、フランス・ストラスブールに渡り分子振動強結合(VSC)についての研究をトーマス・エブソン教授の下で開始した。具体的には、振動強結合とキャパシタ構造を両立するためのキャパシタ・共振器(CC)の開発を行った。このCCはネジを調節することによって共振器厚を調節することができ、任意の共振周波数をもつキャビティとして用いることできると同時に側面の電極をインピーダンスアナライザーに接続・測定することができる。CCを用いた複素誘電率測定を現在進行中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

目に見える研究成果として、第一著者かつ責任著者として査読付きジャーナルに2報(ACS Appl.mater.int誌、およびAdv.mater.誌)発表した。また、その成果報告を応用物理学会で行い、講演奨励賞を受賞した。新型コロナウイルスによるパンデミック、および欧州各国のロックダウンに伴い、当初研究計画の初めに予定していたフランスへの渡航が大幅に遅れ、研究計画の変更を余儀なくされはしたものの、柔軟に研究計画を見直し、計画通りに当初の実験を遂行できた。具体的には、当初、VSCに関する基礎実験手法・知識をフランスで習得することから研究計画を進行する予定であったが、渡航できなかった前半部分に3年目に行う予定であった電子デバイスに関する予備実験を全て遂行した。その後9月からフランスへ渡航し、VSCの基礎実験手法・知見などの習得をはじめ、共振器・キャパシタの作製に成功し、多くの液体・液晶分子の複素誘電率の測定を遂行した。(なお、現在進行中である。)
また、同時にFT-IR測定を行うことで、それらの分子の特定の振動を強結合状態にすることにも成功している。さらには同様のデバイスを用いて温度コントロールを施すことで液晶の相転移挙動を観測できることも確認している。当然、予想した結果が得られないことが明らかになったことや、想定外の問題が発生したが、多くの同僚とコミュニケーションをとり、柔軟に研究計画の舵をきり、根幹の科学的疑問に迫ることができていると考えている。

今後の研究の推進方策

今後は、研究計画通り、上記の共振器・キャパシタを用いた複素誘電率の測定を様々な特徴をもつ分子に適応してその結果を整理・解析した後、固体誘電体、強誘電体へと発展させ、そのVSCの影響を根本的に明らかにする。同様に、相転移や熱伝導におけるVSCの影響も研究計画に沿って実験・解明する。その後、電子デバイスと分子振動強結合下の誘電体デバイスを融合し、高速応答デバイスを作製する。
基本方針としての目的である「分子の誘電率や相転移、熱伝導などのパラメータに着目し、VSCが与える物理的影響の本質を明らかにする」という根幹に重きを起きつつもこれまでの研究手法に加えてフェムト秒レーザーを用いたポンプ・プローブ分光も取り入れて行くことを考えている。特に、誘電率測定において、作製したデバイスのインダクタンスの影響から1 MHz以上の複素誘電率を得ることがインピーダンス法では難しいことが明らかになった。したがって、高周波領域でのVSCの複素誘電率は今後、ポンププローブ法を用いて測定する。加えて、熱伝導のパラメータをキャビティ内の微少量分子から得ることも非常に困難である事が明らかになった。従って、こちらもレーザーを用いたポンププローブ法を用いて測定を行う。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] ストラスブール大学(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      ストラスブール大学
  • [国際共同研究] ハイデルベルク大学(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      ハイデルベルク大学
  • [雑誌論文] Light-Emitting Electrochemical Cells Based on Conjugated Ion Gels2020

    • 著者名/発表者名
      Kushida Soh、Kebrich Sebastian、Smarsly Emanuel、Strunk Karl-Philipp、Melzer Christian、Bunz Uwe H. F.
    • 雑誌名

      ACS Applied Materials & Interfaces

      巻: 12 ページ: 38483~38489

    • DOI

      10.1021/acsami.0c11951

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Fast Response Organic Supramolecular Transistors Utilizing In‐Situ π‐Ion Gels2020

    • 著者名/発表者名
      Kushida Soh、Smarsly Emanuel、Yoshinaga Kyota、Wacker Irene、Yamamoto Yohei、Schr?der Rasmus R.、Bunz Uwe H. F.
    • 雑誌名

      Advanced Materials

      巻: 33 ページ: 2006061~2006061

    • DOI

      10.1002/adma.202006061

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] πイオンゲルを用いた新規有機超分子デバイス:PIGT2021

    • 著者名/発表者名
      櫛田 創,吉永享太, 山本洋平, ウーベ ブンツ
    • 学会等名
      応用物理学会第68回春季学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] πイオンゲルを用いた新規有機超分子デバイス:PIGT2020

    • 著者名/発表者名
      櫛田 創、ウーベ ブンツ
    • 学会等名
      第81回応用物理学会秋季学術講演会
  • [備考] 電気伝導性と応答速度を両立する新しいゲル状電気化学トランジスタを開発

    • URL

      https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20201215140002.html

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公開日: 2021-12-27  

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