研究課題/領域番号 |
20J00845
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
櫛田 創 筑波大学, 数理物質系, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 光物質強結合 / 振動強結合 / ポラリトン / 誘電体 / OKE分光法 / インピーダンス法 / 分子振動 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
分子振動と光共振器が共鳴することでコヒーレントな光と物質の混成状態を形成することを振動光物質強結合(VSC)という。近年、そのエネルギー変化の小ささにも関わらず、VSC状態において化学反応や結晶化、超電導など多岐にわたる物性に大きな変化をもたらすことが報告されている。本研究では分子の誘電率などのパラメータに着目し、VSCが与える物理的影響の本質を明らかにすること、また、後誘電体デバイスへと応用することを目的としている。 今年度も引き続き研究計画に基づき、フランス・ストラスブールで分子振動強結合(VSC)についての研究をトーマス・エブソン教授の下で遂行した。VSCが分子集合能に与える影響を調査するために室温でゲル化する共役高分子を用いて、VSC下での自己組織化挙動・構造を測定した。その結果VSC下において、通常とは大きく異なる自己組織化キネティクス・構造が確認され、VSCによる変調を共同研究者と共に確認した。本実験結果はAngewandte Chemie International Edition誌にて発表しHot Paperとして取り上げられた。 同時進行で振動強結合とキャパシタ構造を両立するためのキャパシタ・共振器(CC)とインピーダンス法を用いて様々な物質の分子誘電率やイオン伝導性をVSC下で測定した。さらにはフェムト秒レーザーを用いたポンププローブ法である光カー効果(OKE)分光のセットアップを立ち上げ、高周波における液体分子の回転緩和をVSC下で測定した。現在得られた実験結果を他の理論・実験的報告と比較しており、VSCが物理指数に与える影響を実験結果から考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目に見える成果としては共同第一著者として査読付きジャーナルに1報(Angewandte Chemie International Edition誌)に論文を発表し、その論文がHot Paperとして取り上げられた。また、その内容はChemistry Worldなどの有名化学メディアに取り上げられた。実験としては研究計画に沿ったタイムラインで進行することができていることに加え、研究提案時にはなかったアイデアであるOKE分光法に着手し、より多角面から研究目的へのアプローチできている。実験結果としては予想と異なる知見が多く見出されており、解釈に悩まされることもあるが積極的に同僚や共同研究者と議論を行うことで核心に迫りつつあると考えている。 新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を少なからず今年度も受けたが、タイムマネジメントをうまく行うことで昨年同様、順調に研究計画を遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
「分子の誘電率や相転移、熱伝導などのパラメータに着目し、VSCが与える物理的影響の本質を明らかにする」という研究目的を達成する上でVSC下における溶媒-溶質の相互作用が重要であるという知見が得られている。したがって今後実験としては、引き続きインピーダンス法・OKE分光法を溶質が溶媒に溶解した状態において適応し、新たに分子間相互作用にVSCが与える影響を明らかにする。 これらの実験は引き続きストラスブール大学のエブソン教授らと協力して遂行する。また、帰国後はそれらの知見を応用し、VSCを適応したデバイス作製を試みる。3年目の集大成として3年間で得られた知見を論文化する。
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