分子振動と光共振器が共鳴することでコヒーレントな光と物質の混成状態を形成することを振動光物質強結合(VSC)という。近年、そのエネルギー変化の小ささにも関わらず、VSC状態において化学反応や結晶化、超電導など多岐にわたる物性に大きな変化をもたらすことが報告されている。本研究では分子の誘電率などのパラメータに着目し、VSCが与える物理的影響の本質を明らかにすることを目的としている。 今年度も引き続き研究計画に基づき、フランス・ストラスブールで強結合(SC)についての研究をトーマス・エブソン教授の下で遂行した。 フェムト秒レーザーを用いたポンププローブ法である光カー効果(OKE)分光のセットアップを立ち上げ、高周波における液体分子の回転緩和をVSC下で測定した。さらにはVSCほどの薄い膜圧(~10 um)程度でも高感度に分子の回転緩和を測定可能である共鳴カー効果法(ROKE)を開発し、その実験技術をThe Journal of Physical Chemistry Lettersに報告した。 また、VSCのみならず液体での励起子強結合の系にもROKEを適応し、非共振器下での挙動と異なる挙動を確認した。 ROKEは高濃度溶液になるほど緩和時間が短くなる。これはエネルギー移動によって励起子の異方性緩和が早まることに起因していると考えられる。液体強結合系では強結合下でエネルギー移動が高速で起き、結果として通常時よりも早い緩和が観測された。
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