現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに、Kif3bヘテロマウスが統合失調症モデルマウスであることをマウス行動解析とその海馬神経細胞の形態学的・細胞生物学的解析により明らかにしました。このKif3bヘテロマウスに統合失調症患者の血中で減少することが知られているベタインを餌に混ぜて、離乳直後から10週齢になるまで与えて飼育を行いました。その後、一連の行動解析を行い、ベタイン投与がマウスの行動に与える影響を解析しました。具体的には、オープンフィールド実験と高架式十字迷路実験による運動機能・情動行動の変化と不安様行動の発現の有無を調べ、スリーチャンバー社会行動実験により社会性の変化を検討し、さらにはプレパルスインヒビション実験を行い、統合失調症で見られるプレパルス抑制の減弱度合いを解析しました。その結果、ベタイン餌を投与したKif3bヘテロマウスで統合失調症様の表現型が改善されることを発見し、これを学術論文に発表しました(S. Yoshihara, X. Jiang, M. Morikawa, et al., Cell Reports 35(2) 2021)。 KIF3BはNMDARのサブユニットのひとつNR2Aを輸送する分子モーターであり、Kif3bヘテロマウスという統合失調症モデルを用いてNR2AとNR2Bの局在と動態等を詳細に解析することは、統合失調症の根本的な治療法を確立することに繋がると期待されます。そこで、もうひとつのサブユニットNR2Bを輸送する分子モーターKIF17にも着目し、その分子モーターにおける統合失調症感受性遺伝子変異を導入したマウスを用いて、行動解析と分子細胞生物学的、電気生理学的な解析を行いました。統合失調症モデルマウスを用いたNMDARの総合的な制御メカニズムの解明を通して、感受性変異が引き起こす分子カスケードの異常を解明することで、統合失調症の根本的な治療可能性を探索しています。
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