研究課題/領域番号 |
20J00904
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山口 健治 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | オペラント行動 / 般化 / 弁別 / 習慣行動 / 目的的行動 |
研究実績の概要 |
本研究では、刺激弁別および習慣行動を形成するオペラント行動実験課題と、自閉症モデル動物や神経科学的手法を用いた神経活動操作を組み合わせることで、刺激弁別と習慣形成に寄与する制止学習の因果的な神経機構を明らかにすることを目的としている。行動課題として、正の弁別刺激(S+)の下でのレバー押し行動が餌報酬により強化される訓練事態において、異なる強化スケジュールを用い、結果の価値予測を伴わず刺激に対して自動的に反応が表出する「習慣行動」または結果の価値予測を伴う「目的的行動」を動物に形成させる。加えて、S+と物理的に異なる複数の刺激の下でのレバー押し頻度を計測することで、行動の制御過程と刺激般化・弁別との関係性を定量化する。その後、刺激弁別の形成と習慣形成の因果関係や疾患モデルとの関わり、およびその因果的な神経メカニズムに関して包括的に調査していく。 まず予測として、一つの行動にこだわる傾向がある習慣行動では、反応と結果の関係に敏感な目的的行動よりも正の弁別刺激に固執して般化が弱くなると仮設を立てて実験した。習慣行動と目的的行動群としてマウスを群分けし、それぞれ異なるスケジュールで訓練した。般化・弁別の程度を調べるため、訓練セッションの3回に1回の割合で般化テスト試行を入れたセッションを実施し、般化テスト試行中はS+を含む異なる高さ5種の音のどれかを提示した。 この実験から得られた結果について、習慣行動・目的的行動それぞれの群における般化テストの反応割合を見ると、予測に反し、目的的行動群はS+およびS+に近い音刺激により反応し、S+に遠い刺激に対して有意な弁別を示した一方、習慣行動群は有意な弁別を見せなかった。これによって予想外の行動原理が行動メカニズムの背景にあることが示唆され、引き続いてこだわり行動を示すと考えられる自閉症モデル動物を用いた検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究への取り組みとして、着任初年度でありながら自発的・積極的に自身の研究を進め、コロナ禍での様々な制約の中、順調に進展を得た。具体的には、まず所属研究室のマウス用行動実験装置を自身の研究計画に必要な形に改良するため、自らのアイデア、計画、実作業によってこれを成し遂げた。続いて、マウスを用いた行動実験についても研究員本人主導で実施した。行動実験を行う際にはマウスの飼育管理、行動制御システムの理解およびプログラムの作成、装置や設備の清掃・維持など様々な業務が必要となるが、本研究員はそれらの業務も主体的に学び、積極的に進めていった。 研究成果について、刺激弁別特性と、習慣行動・目的的行動という行動の制御過程の関係を調査する独自の研究テーマにおいて、行動課題の発案とその実現を順調に成し遂げた。この行動課題では習慣行動・目的的行動を形成させるためにマウスを群分けしてそれぞれ異なるトレーニングを行いながら刺激般化・弁別の形成過程を調査していく必要があるが、受入研究者とのディスカッションを交え目的に合致した行動課題を考案し、実際にそれぞれの群で異なる刺激弁別特性を観察することに成功した。この進捗具合は採用申請書に記載した研究計画とおおむね一致している。 また、本研究員は特別研究員PD着任以前の経験を活かし、これまで当研究室で用いていなかった脳神経活動記録システムのセットアップを主導して開発を進めている。このセットアップに関しても、実用に向けてテストを実施する段階まで進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の仕事により、習慣行動・目的的行動を形成させるためにマウスを群分けしてそれぞれ異なるトレーニングを行いながら刺激般化・弁別の形成過程を調査していく行動課題を確立することができた。予備的に習慣行動・目的的行動それぞれの群間での行動の差を検出出来ており、実験的な証拠として十分なデータが集まるまで引き続き個体数を増やして実験を行う。 また、自閉症モデル動物であるBTBRマウスを用いて、これまでの野生型と同じように2群で異なるトレーニングに従事させそれぞれの刺激般化・弁別特性を調査する行動課題を実施し、野生型との比較をすることで、自閉症にみられるこだわり行動、習慣行動、刺激弁別特性という三つの機能とそれぞれの関わりについてより追及していく。BTBRマウスでの実験はすでに予備的に開始しており、得られたデータからこれらのマウスに最適な実験パラメータを決定し、本実験を実施する予定である。 また、実験と並行して神経科学実験を実施する準備を行う。実施を計画しているフォトメトリー記録や光遺伝学といった神経科学実験では、脳にウイルスを注入し標的遺伝子を発現させる必要があるが、受入研究室ではこれまで遺伝子組み換え実験を行っていないかった。そのため受入研究室で遺伝子組み換え動物を用いた実験が可能になるように申請を行っていく。こちらも2020年にある程度進捗を得ており、2021年度中に実験可能となる見込みである。 さらに、すでに得られている研究成果について学会や研究会で随時発表を行い、意見を得て研究をブラッシュアップしていく。加えて他大学の研究者と研究についてディスカッションをすることでアイデアや実験手法など研究のクオリティを高めていく。
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