重力存在下におけるpositivity boundの導出法はこれまで全くよく分かっていませんでしたが、2020年度までの研究成果により重力存在下におけるpositivity boundの成立条件が明らかにされました。一方で実際に、素粒子標準模型における光子-光子散乱振幅では、弱い力及び強い力の存在により重力存在下におけるpositivity boundが巧妙に満たされていることが2021年度の研究により分かりました。この状況を受け、2022年度では重力存在下におけるpositivity boundの現象論への示唆の研究を本格的に始動しました。現象論の重要なターゲットとして、暗黒物質を含む暗黒セクターの粒子の探査があります。そこで我々は暗黒セクターの粒子と光子の2体2体散乱に対して重力存在下におけるpositivity boundを議論しました。特に暗黒光子の存在する模型を一例として議論し、光子と暗黒光子間の結合(運動項の混合、または媒介粒子による間接的結合)の強さに対する下限を与えました。その下限の模型毎の示唆は模型の詳細に依存しますが、ある模型に対しては既存/今後の観測結果によって棄却しうるほどに厳しい制限とであることがわかりました。この結果は重力存在下におけるpositivity boundを議論することで、量子重力理論における散乱振幅の性質を実験的に検証できるという興味深い可能性を示しており、探査するパラメータ領域に対する理論的動機を与えます。
本成果を軸に、特に本成果のトップダウン的な理解を具体例で明らかにしていくことで、着実に重力の量子論と低エネルギーにおける場の理論の関係性に対する理解を深めていくことができると期待しています。
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