本研究では、走化性モデルや圧縮性流体力学に関連した非線型放物型偏微分方程式、特に放物型・楕円型偏微分方程式の連立系で与えられるKeller-Segel系の最も単純なものの一つである移流拡散方程式を主たる対象とし、その類似の方程式の解の非有界性や有界性といった性質や時間大域挙動を詳細に解析することが大きな目的である。本年度得られた結果は以下の通りである。 (1) 移流拡散方程式の初期値問題のうち、有限時間爆発解で観測されるノルム凝集現象に対する定量的評価を与えることができた。具体的には、形状分解の方法を用いて球対称な有限時間爆発解に対して、爆発形状の満たすべき尺度不変量に対する局所的な定量的評価を与えた。特に、初期値の空間遠方での挙動での制約を緩和すると、該当する定量的評価は緩和した度合いに応じて変化することも示した。この結果は国際学術雑誌に掲載された。 (2) 移流拡散方程式の解の時間大域挙動の解析のうち、局所可積分性に着目した枠組みにおいて特殊解の存在性を考察した。本年度は、その進行波解と散逸波解の存在性を調べる際に適切な枠組みと、基本的な評価式を得る際に必要と考えられる手法を精査し、進行波解については特定の条件下では存在し得ないことを示した。 (3) 移流拡散方程式の初期値問題のうち、前方自己相似解の形状関数の考えうる大域的漸近挙動を力学系理論を援用し解明した。この形状関数の解析は、初期値に依存せず方程式の構造のみに着目することから、前方自己相似解の一意性の解析に重要となる可能性が示唆された。
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