研究課題/領域番号 |
20J00963
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
白 凛 同志社大学, 社会学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 在日コリアン / 美術史 / 朝鮮半島 |
研究実績の概要 |
2020年度中以下のような研究実績があった。1,在日コリアンの美術を多角的視点で分析し、2,日本の文化的背景を理解した上で解明し、3,朝鮮半島の南北分断状況を踏まえた研究を行なった。 ジョージタウン大学教授ムン・ボムガンさんの著書を日本語訳し刊行した(日本語版タイトル『平壌美術, 朝鮮画の正体』、青土社)。刊行後、出版記念イベントを開催し、採用者自身の研究内容と関連付けながらお話した。これは上記「1」に該当する。 また上記翻訳本の刊行準備作業と平行して単行本の刊行準備も進めた(タイトル『在日朝鮮人美術史1945-1962』、明石書店)。単一のアイデンティティに還元されないアーティストの活動、これまで日本美術史研究が見落としてきた戦後美術史の一端が採用者の書籍を通して明らになった。採用者は自身の研究内容がどのような形であれば世に問うことができるのかを妥協することなく追求している。刊行後は上記の翻訳本と同様、勉強会なども開催し、シンポジウム、講演会で発表した。これは上記「2」にあたる。 また国際高麗学会の機関誌に論文が掲載された。その内容を受入研究者のゼミでも発表した。これは「3」に当てはまる。 コロナ禍で開催できなかった展覧会(戦後日本の版画運動と民族教育について)は次年度開催のために準備を整えており、聞き取り調査や資料閲覧を続けた。このような研究活動が評価され、韓国の金復鎮美術理論賞運営委員会から復鎮美術理論賞が授与された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①翻訳本の出版:タイトルは『平壌美術-朝鮮画の正体』である。朝鮮民主主義人民共和国の朝鮮画を分析した初めての本格的な書籍であり、著者との協議を通して原著にない光州ビエンナーレのレビューを収録した。採用者の「訳者あとがき」には本書の意義を記した。本の紹介文の執筆依頼があり、平行して行なった。 ②単行本の出版:タイトルは『在日朝鮮人美術史1945-1962』である。博士論文の単行本化作業は博士論文の審査終了直後(2020年3月末)から開始した。二つの財団からの出版助成を得て刊行した(花王芸術科学財団および鹿島美術財団で2019年に決定)。 ③原稿執筆:国際高麗学会の学会誌に論文を投稿し、査読を経て採用された。タイトルは「鄭鐘汝と在日朝鮮人美術家との接点」であり、2年間の研究成果をまとめたものである。共著者・池貞姫先生(愛媛大学教授)と共に、朝鮮民主主義人民共和国を代表する画家である鄭鐘汝と、申請者がこれまで追ってきた在日コリアン美術家たちとの接点を整理し、異国における次世代教育の一端を明らかにした。 ④口頭発表および勉強会の参加:A. 同志社大学KOREA文化研究会が主催する日朝関係史講座で講演:「在日朝鮮人の美術史, 日朝の観点から」というタイトルで約1時間講演し、質疑に応じた。B. 東アジア美術に関する勉強会に参加および発表:上記同様「在日朝鮮人の美術史, 1950年代を中心に」の内容ではあるが、美術や社会的少数者に関する部分をより具体化させた。C. 受入研究機関である大阪大学のゼミで発表:前期6月と後期1月に発表の機会をいただいた。大学院生に参考になるように博士論文の構成内容も伝えた。D. 戦後日本版画を研究する勉強会に参加:4年前から開催されている勉強会であり、戦後日本の版画史について日本各地から専門家が参加している。今年度からオンライン開催となり機関誌や資料を読んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
①翻訳本『平壌美術-朝鮮画の正体』(青土社、2021年)と、博論をもとにした『在日朝鮮人美術史1945-1962』(明石書店、2021年)の内容を広く伝える。東アジア美術を多角的視点からとらえたこの2冊を通して既存の美術研究のあり方に問題提起を行なうという試みを引き続き遂行する。 1,著者ムン・ボムガン先生の講演会を開催する。 2,同書についての勉強会に積極的に参加する。3,拙著『在日朝鮮人美術史』についていくつかの講演が決まっている。また同書刊行後、「作品を持っている」「写真資料がある」、また、「同書に出てくる美術家と親族だ」などといった情報が寄せられている。研究に積極的ご協力くださる方についてはできるだけ直接出向き、資料提供をお願いする。 ②次年度中に展覧会とシンポジウムを開催し、成果を小冊子にまとめる。同展とシンポジウムを通して新たな資料の発掘、新たな聞き取り調査の実施が見込まれる。そのためこの小冊子には展覧会とシンポジウムよりも充実した内容を収録できる予定である。9月に原稿を揃え、2月刊行を目標とする。 ③絵本の絵を担当した朴民宜さん(1947- )にロングインタビューを行なう。朴さんの半生を整理し、表現し続ける女性アーティストの在日コリアン文化史への位置づけを行なう。またこれに基づいた展覧会を開催し、情報を広く共有する。展示作品は直近の作品の原画、これまで刊行された絵本などである。また一緒にご活動なさった李錦玉さん(児童文学)、そして京都にお住まいの韓丘庸さんの文学作品を展示する。韓丘庸さんについては受入研究者である板垣竜太先生が2018年以降にゼミでまとめてこられたライフヒストリーがあり、研究の連携を積極的に図る。
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