研究課題/領域番号 |
20J00982
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
天野 優 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | イラクのユダヤ人 / ユダヤ系知識人 / シオニズム |
研究実績の概要 |
20世紀初頭、特に1920年代イラクのユダヤ・コミュニティにおけるシオニズム受容の経緯と、その活動に関わった都市部のユダヤ系知識人に焦点を当て、主にアラビア語やヘブライ語の新聞・雑誌を資料として用い研究を進めた。中でもパレスチナ/エレツ・イスラエルとイラクのユダヤ・コミュニティとの関係性に着目し、報告、書簡、手記などにおけるイラク出身ユダヤ系知識人のパレスチナ/エレツ・イスラエル描写を考察した。こうした研究の成果を、6月にエルサレムのベン・ツヴィ研究所で行われたファルフード(ユダヤ人襲撃事件)80周年記念シンポジウムにおいてヘブライ語で報告したほか、「1920年代イラクの「シオニスト」とその活動:エレツ・イスラエルとの関係を手がかりに」と題し、12月発行の『ユダヤ・イスラエル研究』において論文として発表した。7月には日本ユダヤ学会公開シンポジウム「コロナ禍のユダヤ人社会」において、「パシュケヴィル(張り紙)から垣間見る超正統派社会とパンデミック」と題し、携帯電話やインターネットなど現代技術を忌避するユダヤ教超正統派社会の情報伝達媒体の一例としてパシュケヴィル(張り紙)を取り上げ、パンデミック下エルサレムにおけるユダヤ社会の動向について報告した。令和2年度はコロナ禍の影響で、国内外の移動を含め研究活動が大幅に制限されていたが、ある程度制限が緩和された令和3年度は、10月から客員研究員としてニューヨーク大学ユダヤ・ヘブライ学科タウブ・イスラエル研究センターで在外研究を開始することができた。資料収集に加え、シオニズムやアラブ地域出身ユダヤ人のアイデンティティ問題を専門とする研究者らと積極的に議論を重ね、新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アラビア語・ヘブライ語の新聞・雑誌といった文献から、特にシオニズムとアラブ・ナショナリズムに関する記事や関連する人物を取り上げ、今後本研究の中核となるユダヤ系知識人のユダヤ性とアラブ性が相関する事例を取り上げ、ナショナルな言説が生み出された社会的・歴史的背景を明らかにし、報告することができた。コロナ禍により研究活動が大幅に制限される時期が続いていたが、そうした中でもオンラインで国内外の研究会へ参加するなど、状況に応じた研究を積極的に行うことができた。また、計画していた在外研究を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きニューヨーク大学ユダヤ・ヘブライ学科タウブ・イスラエル研究センターに拠点とし、在外研究を行う。その間、これまでの研究で明らかになった成果に加え、北米で近年進展しつつある近現代中東史やシオニズム史の研究動向を積極的に反映し、当該分野の研究者と意見を交換することで、20世紀前半イラクのユダヤ・コミュニティにおける複合的なアイデンティティを多角的に検討したい。イラクにおけるユダヤ・コミュニティが置かれていた歴史的文脈に留意しつつ、ユダヤとアラブそれぞれにおいて多様な民族運動が展開される中でユダヤ系知識人によって著されたナショナルな言説の分析、その相関の細部を詳らかにすることで、当時の「ユダヤ性」の一側面を提示する。コロナ禍による国内外の状況を考慮しつつ、資料収集を積極的に行い、国内・国際学会において成果を報告する予定である。
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