研究課題/領域番号 |
20J01086
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
霜田 治朗 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 天の川銀河 / 超新星残骸 / ガンマ線バースト / 無衝突衝撃波 / 高エネルギー宇宙物理学 |
研究実績の概要 |
令和2年度では当初の研究計画の粒子間衝突反応の計算を行い,ガスの輻射冷却函数の計算を行なった.その中で先行研究の冷却函数には見られなかった,熱的に安定なブランチが存在する可能性を新たに見出した.これは主に鉄イオンの衝突電離・再結合反応率を最新の理論計算に基づいて評価した結果であり,この修正が銀河の長時間進化を決定づける銀河円盤へのガスの流出入に対してどのように影響を与えるかを調べる必要が新たに生じた.特に,「銀河風」によるガスの流出とともに宇宙線も流出していくために,銀河円盤内(星間媒質)での宇宙線のエネルギー収支の解明に直接関与する.銀河風の先行研究では宇宙線の拡散とガスの加熱・冷却を同時に扱ったものがなく不十分であったので,新たに銀河風モデルを構築し,観測から決まる現実的なパラメーターの範囲で銀河風が長時間駆動することを見出した.この時に駆動される銀河風は高温領域と低温領域を含む場合があり,これは観測から示唆されているが,これまでの理論計算では再現されていなかった.この低温領域と高温領域が混在するか否かは宇宙線圧力の大きさに依存している可能性があり,モデルを精査することで究明を試みている.また,冷却函数の熱的に安定なブランチの存在を観測,ないしは実験的に検証する方法を模索しており,関連分野の情報収拾にあたっている. これと並行して,宇宙線の起源の第一候補である超新星残骸の無衝突衝撃波での粒子加速過程への理解を深めるために,超新星残骸での電波帯域による観測的研究に参加し,共著者として観測結果の理論的解釈の一部を担当した.また,ガンマ線バーストの残光と呼ばれる相対論的な速度をもつ無衝突衝撃波における磁場構造を電波・可視光帯域の偏光観測から制限するための理論モデルを構築し,筆頭著者として論文を一編執筆した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終的な目標である宇宙線のエネルギー収支問題について計画段階では予想していなかった観点から重要な成果を与えると期待される課題を新発見する事ができ,研究範囲を大きく広げる機会を得た.金属による輻射冷却函数は当初の研究課題である分子雲の電離度を解明する上でも必須であり,こちらの理解を深めることも出来た.
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今後の研究の推進方策 |
今後は銀河風が宇宙線のエネルギー収支についてどの程度影響を与えるかを調べる.同時に,新たに得られた金属による輻射冷却函数を用いて,超新星残骸衝撃波でのイオン加熱過程をモデル化して衝撃波下流でのイオン温度について調べる.イオン温度は運用が間近に迫っている次世代X線衛星XRISMによって詳細に検証される事が期待されており,その理論モデルの構築は観測グループから待望されている.
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