研究課題/領域番号 |
20J01086
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
霜田 治朗 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 天の川銀河 / 超新星残骸 / 無衝突衝撃波 / X線分光 / 高エネルギー宇宙物理学 / 銀河考古学 / 銀河進化 |
研究実績の概要 |
天の川銀河では過去80億年に渡って星形成が1年あたりに1太陽質量程度で一定に持続していることが観測的に分かっている.一方で,現在の銀河円盤には,星の原料たるガスは10億太陽質量程度しかなく,長時間の星形成率を持続させることができない.従って,銀河円盤に何らかのガス流入が必要であると考えられている.一方で,系外銀河の観測から銀河の周りには普遍的に金属汚染されたガスが100億太陽質量以上存在していることが示唆されている.金属は銀河円盤で生成されるので,汚染ガスの存在は銀河風などによる銀河円盤からのガス流出が存在することを意味する.ガスが金属汚染されると原子輝線によって輻射冷却が効きだし,十分に冷却時間が短ければ,銀河円盤の重力に抗しきれず再び落下し,銀河円盤はガスを獲得することができる.また,銀河風とともに宇宙線が流出していくために,銀河円盤での宇宙線のエネルギー収支にも直接関わる.我々は天の川銀河で現実的に取りうるパラメーター範囲で銀河風が長時間駆動されることを示した.銀河風による質量輸送率は星形成率と同程度あるので,ガスの再落下によって銀河は一定の星形成率を持続できうる.さらに,金属汚染されたガスが十分短い冷却時間を持つのは,銀河円盤において宇宙線圧力が熱的ガスの圧力と同程度以下のときであることを発見した.すなわち,星間媒質で見られるエネルギー等分配則は長時間持続している星形成率と密接に関わっていることを発見した.これらの成果を国内研究会で関連する研究者と議論・共有し,現在は2022年6月に行われる欧州天文学会での発表に向けて準備を進めている. これと並行して,超新星残骸の無衝突衝撃波でのエントロピー生成からイオン温度を予言することに成功しており,結果を論文にまとめている.また,X線観測グループと協力してXRISM衛星による検証に向けて準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の最終的な目標である宇宙線のエネルギー収支問題が,銀河風の観点から計画段階では予想していなかった銀河進化と密接な関わりがあることを確認し.研究範囲を大きく広げる事ができた.また,当初の計画通りに昨年度までに得られた金属による輻射冷却函数を超新星残骸に適応し,X線観測と比較可能な水準の理論モデルを構築することに成功した.世界的に類似した研究がなく行き詰まっていた無衝突衝撃波におけるイオン加熱機構の提唱に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は銀河風と宇宙線のエネルギー収支との関係をより深く追求するために,銀河円盤の進化モデルを構築していく.また新しく提唱した無衝突衝撃波でのイオン加熱過程を検証するため,X線観測グループと協力して観測提案などの準備を進めていく.これらと並行して,超新星残骸での種々の化学反応ネットワークの構築とそれに伴う輻射の計算を進めていく.
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