研究課題/領域番号 |
20J01134
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
深山 絵実梨 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 東南アジア考古学 / 甕棺墓 / 埋葬習俗 / 胎土分析 / 海域ネットワーク / ベトナム / フィリピン / カラナイ土器 |
研究実績の概要 |
本研究は、金属器時代の南シナ海周辺地域に分布していた甕棺墓という埋葬習俗を研究対象とし、海域ネットワークの形成と展開の背景にあった人々の活動について明らかにすることを目的としている。具体的には、埋葬遺跡データベース構築、甕棺・土器の製作体系分類の為の発掘調査と出土甕棺・土器の胎土分析を実施し、研究の土台を構築する。 初年度である令和2年度は、研究対象であるベトナム(約20遺跡)およびフィリピン(約10遺跡)の甕棺墓地遺跡に関する報告書や論文等の精査と情報の整理に基づいて、遺跡の立地、出土遺構、墓の特徴、棺体、副葬土器、金属器、装身具等の副葬品、出土人骨などのデータベースを構築した。また、これにより墓構造や副葬品のセット関係を整理し、同一の特徴を持つ遺跡が繰り返し現れる範囲を分析し、地域文化を検討した。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によって当初予定していたベトナムやフィリピン、台湾における調査・分析が実施できなかったため、類例先行研究の精査、対象遺跡を増やしてのデータベース拡充作業を実施した。 構築したデータベースをもとに、先行研究で関連づけられてきたベトナムとフィリピンの甕棺墓文化について、棺体や副葬品の一部に類似は見られるものの、同一の考古文化には分類されないという予察を得た。また、特にベトナムにおける甕棺墓埋葬習俗の地域性について検討し、論文を執筆した。 令和4年度には、フィリピンの金属器時代遺跡の踏査・発掘調査にむけた調整をフィリピン国立博物館と進めたほか、第22回アジア太平洋先史会議にて研究発表をおこない、前述のベトナムとフィリピンの甕棺墓文化の比較からみた両地域文化の差異について報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度においては、新型コロナウイルス感染症の流行によって、当初予定していたベトナム、フィリピンにおける現地資料調査、遺跡踏査、試掘・発掘調査、および台湾における土器の理化学分析調査が実施できず、予定していたよりも研究の進展は遅れている。一方で甕棺墓地遺跡に関するデータベースを大幅に拡充したため、当初の想定よりも豊富な比較情報の獲得に成功しており、この点においては本来の研究計画の遅れをカバーした。 また、令和4年度にはフィリピンの金属器時代遺跡の踏査準備完了し、進捗状況の遅れを取り戻した。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目の令和3年度は、フィリピンにおける発掘調査・整理作業の実施、土器胎土分析の実施、土器の形態・技術・胎土分析に基づく製作体系の分類を予定していた。 年度前半に発掘・整理作業を実施予定であったフィリピンでは依然として新型コロナウイルス感染症が流行していたため、予定を変更して年度後半に実施とした。 そこで年度前半は、令和2年度末時点で感染状況が比較的落ち着いており日本からの入国が可能な台湾にて、土器の胎土分析を集中的に実施することとした。分析の対象とする土器は、ベトナム中部ホアジェム遺跡およびフィリピン・マスバテ島で出土したカラナイ土器を含む土器群である。これらはすでに分析を実施する台湾にて保管しており、走査型電子顕微鏡(SEM)による土器の断面観察、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による土器胎土に含まれる鉱物の化学的同定をおこない、土器製作時の胎土づくり、焼成温度、原材料採取について検討する。これにより、甕棺とその副葬土器の形態分類、技術の検討、素材の獲得戦略の分析にもとづく製作体系分類と編年構築を企図する。 しかし結局、台湾への渡航直前で感染状況が悪化したため、令和3年度中には台湾・フィリピンにおける現地調査・分析は実現できず、感染状況が緩和された令和4年度に実施となった。
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