小惑星リュウグウもベヌーも共に炭素質であるC型のスペクトルを持つ物質で覆われている。しかしながら探査機による表面の詳細観測より、数mスケールより小さい岩塊の中にはC型以外のスペクトルを持つものもあることがわかった。リュウグウの表面には主にS型の岩塊があり、S型岩塊の総体積はリュウグウそのものの10^-5程度であると見積もられている。一方ベヌーの表面には主にV型の岩塊があり、V型岩塊の総体積はベヌーそのものの3x10^-4程度であると見積もられている。これら少量のスペクトルの違う岩塊は、リュウグウやベヌーのC型母天体がS型やV型のインパクタに衝突されて粉々になった時にインパクタの破片が混入したものだと考えられている。 10^-5や3x10^-4といった少量のインパクタ破片が混入する大規模衝突破壊の条件を調べるため、リュウグウやベヌーの母天体だと考えられているオイラリア族母天体を模擬した直径100 kmのターゲット天体への大規模衝突破壊の高解像度数値計算を実施した。その結果、各計算で形成される集積天体のインパクタ割合は1桁程度のばらつきの中でほぼ同じ値を持ち、その値は主に衝突角度で決まることがわかった。衝突角度35 - 45°程度の斜め衝突で主にベヌーの外因性岩塊の混入率である3x10^-4程度のインパクタ割合を持つ集積天体が再現できた。一方で、解像度の問題で統計的な有意さはないものの、衝突角度50 - 60°程度のかすり衝突でリュウグウの外因性岩塊の混入率である10^-5のインパクタ混入率を持つ集積天体の形成を確認することができた。 リュウグウとベヌーそれぞれに含まれる外因性岩塊の量を1回の衝突計算で両方再現することはできなかった。このことは、両者が同じ母天体から一回の大規模破壊衝突のみでは形成できないこと、両者が異なった衝突履歴を経験したこと、を示唆する。
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