研究課題/領域番号 |
20J01170
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 駿 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 向社会性 / 魚類 / 向社会的選択課題 / 比較認知科学 / 進化生物学 |
研究実績の概要 |
新型コロナの流行により、実験の進捗は芳しくなかった。また、当初想定していたザンビア共和国、タンガニイカ湖での野外調査は中止せざるを得なかった。一方当初予定していた選択実験に関しては一部進捗があった。この実験では、自分だけが餌をもらえる「反社会的選択肢」と自分と繁殖パートナーの両者が餌をもらえる「向社会的選択肢」を提示し、実験個体である成熟したコンビクトシクリッドのオスがどちらを選ぶかを調べた。その結果、実験個体は自分と繁殖パートナーの両者が餌をもらえる「向社会的選択肢」を選び、その割合は餌の受領者が繁殖パートナーから別の個体(オス個体など)になることで割合が変化することが明らかになった。また、ビデオ解析から実験中、繁殖パートナーが報酬である餌を食べる際、選択を行った実験個体が振り返り、その様子を観察するような行動が観察された。これらの結果から、私は魚類の持つ向社会性は霊長類のそれと類似していると結論づけた。以上の結果は、査読を経てNature Communicationsに掲載された。また、プレスリリースを行い、各種メディアで研究が紹介された。合わせて、野外でのビデオデータからタンガニイカシクリッドの子育て行動を観察し、その一部はFrontiers in ecology and evolutionに掲載された。また、タンガニイカ湖に生息する基質産卵カワスズメ科魚類であるNeolamprologus bifasciatus(バイファスキアータス)に対する飼育実験を実施した。この実験ではバイファスキアータスの野外環境を模した水槽にて、幼魚が巣から分散せずヘルパーになること、繁殖雄や雌、ヘルパーが実験的に導入した侵入者に対して協力して縄張り防衛を行うことを明らかにした。この実験の結果と野外観察の結果を統合することで、本種が協同繁殖種であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナCOVID-19の流行により、当初予定していた種間比較についてもザンビア共和国タンガニイカ湖においてサンプリングおよび調査を行うことができなかった。しかし、そんな中においても、これまでの実験の結果がNature Communicationsに掲載されるなど、進展が認められた。掲載が決定した論文は本プロジェクトの中核をなすものであり、国内外メディアの反響も大きい。
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今後の研究の推進方策 |
上述した選択実験の結果を発展させ、魚類の向社会性の認知基盤/ 生理基盤のより深い理解を目指す。具体的にはオキシトシンレセプター拮抗剤を用いた実験を行う。この実験では、実験個体が向社会的選択を学習した上でオキシトシンレセプター拮抗剤を注射(コントロール実験では生理食塩水を注射)し、選択の割合に変化が見られることを確認する。ヒトなど哺乳類においてオキシトシンは向社会性に多大な影響を及ぼすホルモンである。実験個体が向社会的選択の割合がオキシトシンレセプター拮抗剤の注射で減少するのであれば、魚類と哺乳類の向社会性の生理・神経基盤は少なくとも部分的に共有されていることを示すことができるだろう。また、心の理論や情動表出に着目した実験も展開する。さらに去年度実施することができなかったタンガニイカ湖での野外調査/ サンプリングについても新型コロナの流行状況を鑑みつつ実施する。本調査では協同繁殖と強い向社会性の相関進化について明らかにする予定である。去年度の実験により、対象種の必要な社会構造の記載はほぼ完遂することができた。よって、これらの種に対してPCTを実施していきたい。
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