本研究プロジェクトでは、カワスズメ科魚類における向社会性・協力について、野外調査と飼育実験を通じて明らかにすることを目的としている。具体的には、カワスズメ科魚類の「向社会性=他者に利益を提供する性質」の認知基盤、生理神経基盤、進化基盤を並行して解明することを目指している。これにより、これまで見過ごされてきた魚類の「向社会性」や「協力」について詳細に記載し、脊椎動物の向社会性進化に新たな視点を提供することができる。 課題の一つである認知基盤については、向社会的選択課題(Prosocial Choice Task)を魚類にも適用できるように改良し、中米シクリッドであるコンビクトシクリッドに対して検証した。その結果、後者を積極的に選ぶことが明らかになり、魚類にもother-regarding preferenceを持つ可能性があることが初めて明らかにさた。この成果は、Nature Communications誌に掲載されていた。課題の一つである生理神経基盤については、飼育実験の遅延により、対照種の脳の神経染色法の開発にとどまりまった。課題の一つである進化基盤については、コロナ禍で野外調査が大幅に遅延したが、種間比較により、タンガニイカ湖において、協力的な社会である「協同繁殖システム」が4回進化したことが示され、これらは捕食圧といった生体的要因によって駆動されてきた可能性がを明らかにできた。また、協同繁殖システムの進化は社会知性の進化と密接に関連する可能性があることが示唆された。進化基盤についてのデータはまとめられ、2023年5月現在、当該分野の科学雑誌で査読中である。
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