当該年度も多くの研究業績を残すことができた。量子ウォークの周期性を研究するにあたり、代数的整数論が有用であることが分かったことが大きい。代数的整数論の基礎的な知識を補填し、代数的グラフ理論の基本的な事実と組み合わせることで「完全状態遷移が起こるための、グラフの固有値に関する必要条件を導出」することができた。当該年度は固有値に関する条件だけでなく、グラフの自己同型群に関する必要条件(大雑把にいえばグラフの対称性である)も導出することができた。こちらについては、頂点xから頂点yへ完全状態遷移が発生するならば、xを固定する自己同型群とyを固定する自己同型群が等しくなければならないことが分かった。また、量子ウォークに関連して、量子ウォークの discriminant にあたる行列の性質について研究した。これは混合グラフのエルミート隣接行列と呼ばれる行列であり、スペクトルグラフ理論でもしばしば登場する行列である。この行列は、2部的でなくとも固有値が原点に関して対称となってしまうことがあることが知られている。当該年度は、どのような角度が「グラフが2部的でなくとも固有値が原点に関して対称となることがある」かを明らかにした。証明の一部は超越数論を用いており、ここでも代数学の知識が役にたった。
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