研究課題/領域番号 |
20J01234
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 光 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞内温度 / 細胞内温度計測 / 示差走査熱量計測 / 膜脂質 |
研究実績の概要 |
近年,1細胞温度計測により, 生命が1細胞レベルで温度恒常性を有する可能性が示されてきた。実際,本研究員のこれまでの研究では,細胞自律的なミトコンドリア熱産生の制御が細胞内温度の維持に寄与することが明らかとなっている。一方で,熱力学的観点に立ち返ると,細胞内という微小空間において温度恒常性が成立するためには,細胞内の発熱のみならず,細胞内の“熱移動”,及び細胞の“熱収支”が重要であるが,その分子実体は殆ど不明である。そこで本研究員は,細胞内の熱移動並びに熱収支を解析することにより,1細胞の温度が形成される分子機構の解明を目指している。 当該年度の研究では,細胞内熱移動の定量的解析を実現するために,1細胞内における温度変化の実時間観察法を構築するとともに,細胞内の熱移動に関与する生体分子の探索を行った。細胞の普遍的な構成因子として生体膜脂質分子に着目し,一連の解析を行ったところ,複数種類の哺乳類培養細胞内において,コレステロールに依存した遅い熱移動を見出した。 また,生体分子の熱力学的挙動,及び生細胞の熱収支を解析するために,示差走査熱量計測(DSC)をベースとしたマイクロカロリメトリーを導入した。本手法を用いて複数種類の哺乳類培養細胞及びその細胞破砕液の解析を行ったところ,生細胞に固有の発熱及び吸熱を同定した。 以上,細胞内における熱移動や熱収支を解析する実験系の構築に成功し,哺乳類培養細胞が有する基礎的な熱力学的特徴が明らかとなった。特に,コレステロールが哺乳類細胞内の熱移動において普遍的な役割を有する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究では,当初の計画の通り,1細胞内温度変化の実時間観察法,並びに生細胞の熱計測法を構築し,生細胞における熱移動や発熱及び吸熱反応(熱収支)を定量的に解析できるようになった。さらに,構築した実験系を複数種類の哺乳類培養細胞に適用することにより,細胞の普遍的な構成要素であるコレステロールが細胞内の熱移動に重要な役割を有することを見出した。また,構築した実験系は,次年度以降に予定している研究においても活用でき,今後も1細胞内温度の形成機構の理解に貢献すると考えられる。 以上の進捗状況から、当初の計画を基に本研究が概ね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・2020年度に見出したコレステロール依存的な細胞内熱移動について,より詳細な解析を行う。具体的には,コレステロールが細胞の機能や構造に果たす役割に着目し,生体膜の流動性や細胞骨格依存的な細胞構造の維持が細胞内の熱移動や熱収支に与える影響を解析する。 ・細胞内の熱移動を司る因子をより広範に探索するために,網羅的な遺伝子スクリーニングを行う。具体的にはまず,CRISPR-Cas9システムもしくはsiRNAシステムにより遺伝子変異細胞ライブラリーを作製し,対照群と比較して細胞内温度が有意に異なる細胞群を抽出する。 ・細胞内の熱移動や熱収支の生物学的意義の解明のため,内温/外温生物の培養細胞を用いた比較解析を行う。具体的には,外温動物であるショウジョウバエの培養細胞の熱力学的特性を2020年度に構築した実験系により解析し,哺乳類培養細胞との比較を行う。
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