本研究課題「繁殖干渉下の共存を可能にする進化的救済のメカニズム」では、従来の理論からは共存困難であると考えられる近縁植物種の共存機構について、繁殖様式の進化による進化的救済が共存を促進するという仮説の検証を目的としている。具体的には、送粉者を介した繁殖干渉(他種の花粉が柱頭に運ばれてくることによる種子生産量の低下)が存在するにも関わらず、野外で同所的に分布している在来近縁草本2品種ツユクサとケツユクサを用いて、自動自家受粉の進化に伴う自殖率の増加が進化的救済をもたらすかどうかについて調査を進めている。 本課題では、実際に野外集団で繁殖干渉が自殖の進化を引き起こしているかどうかを検証することを目的に、岡山県・兵庫県のケツユクサが単独で生育する野外集団(単独集団)とツユクサとケツユクサが同所的に分布する野外集団(共存集団)のケツユクサを対象に調査を行った。結果、自殖率については単独集団と共存集団で統計的に有意な差がみられなかったが、単独集団には自殖率が低い集団から高い集団まで幅広く存在した一方で、共存集団では比較的高い自殖率の集団しか見られなかった。このことは、ケツユクサは単独で存在する場合にも幅広い自殖率を示し、もともと保持していた自殖率のバリエーションが繁殖干渉をもたらすツユクサとの共存を可能にしているというアイデアを支持しているかもしれない。今後は、自殖率の高い集団と低い集団において、その違いをもたらす環境条件や花形態等について明らかにしていく必要がある。
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