溶解した高分子からなる夾雑系における分子結晶化を調査した。相互に結合する二種類の四分岐型ポリエチレングリコール(PEG)をプレポリマーとして用いた液相合成により、分子量が異なる様々なPEGを完全溶解状態で調製した。結晶性モデル分子としてカフェインを用い、その結晶化挙動への高分子夾雑の影響を評価した。 合成したPEGは流体力学半径が4、9、および20 nmであり、それらの1~60 g/L水溶液中においてカフェインを結晶化させた。その結果、いずれの条件においても溶液が白濁し、これはカフェインの微結晶の生成に起因することが光学顕微鏡観察ならびに広角X線回折測定によりわかった。そこで溶液の濁度をカフェイン結晶化の指標とし、その経時変化を評価した。PEG濃度が1~20 g/Lの希薄領域では、PEGが高分子量ほど濁度の増加速度が大きかった。これは、高分子量PEGがカフェインの結晶化を促進することを示している。高分子の排除体積に由来する枯渇引力がカフェインの分子クラスター間にはたらき、結果として結晶核形成が促進されるためと推察される。 一方で、重なり濃度以上の準希薄領域である60 g/LのPEG溶液中では、カフェインの結晶化速度にPEG分子量依存性がなかった。これは、準希薄領域の高分子溶液の特徴サイズがブロッブであることに起因すると推察される。ブロッブは枯渇引力をはじめとする様々な高分子溶液特性を決定する基本ユニットであり、準希薄領域ではそのサイズに分子量依存性がない。それゆえ、本系ではカフェイン分子クラスター間にはたらく枯渇引力が同程度となり、結果として結晶化速度にPEG分子量依存性がなかったものと推察される。 以上から、高分子の重なり合いが、結晶化に基づく分子集合化挙動を誘導することが明らかとなった。
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