研究課題
当初の研究計画では、本年度は過去の掘削航海にて採取された南海トラフのコア試料および測定されたXRDデータを用いて、断層岩の鉱物組成・摩擦特性の深度分布を評価する予定であった。しかし新型コロナウィルスの感染拡大に伴い長期の実験出張が困難となったため、当初の研究目的に関連する座学的なテーマについて、主にPCを用いて研究を実施した。断層運動による断層岩の機械的非晶質化は、プレート沈み込み帯における鉱物組成の空間不均質を考える上で重要であるかもしれない。昨年度までに実施された摩擦実験および試料分析のデータを解析し、機械的非晶質化が摩擦仕事・鉱物種に強く依存する過程であることを明らかにした。一連の研究成果は論文にまとめられ、国際学術雑誌 "Journal of Geophysical Research: Solid Earth" に2020年10月8日付で掲載された。沈み込み帯における鉱物組成の空間不均質は、岩石の被熱史に強く影響を受ける。岩石中のビトリナイト反射率から被熱史を推定するEASY%Roモデルに着目した。典型的な温度パスを仮定することで、ビトリナイト反射率を最高被熱温度に換算する新たな近似式を導出した。一連の研究成果は論文にまとめられ、国内学術雑誌 "地質学雑誌" に2020年11月15日付で掲載された。摩擦実験や地震サイクルシミュレーションを行う際、間隙水圧の初期分布をどう設定するかは非常に重要な問題である。沈み込み帯では、沈み込みに伴う移流、流体への温度の影響、岩石の体積変化、脱水反応による流体の湧き出し、などの影響を考慮した上で初期間隙水圧を設定する必要がある。これらの影響を考慮した系を設定し、間隙水圧の定常解の空間分布を決定する微分方程式に定式化した。これらの研究成果の一部について、JpGU 2021 Meetingにてポスター発表を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、本研究の重要な要素の一つである「断層岩の物性値の空間不均質を摩擦・水理実験から制約する」ことに着手することはできなかった。しかし本年度に取り組んだテーマのうち、「断層運動による鉱物の機械的非晶質化の定量的評価」および「ビトリナイト反射率から被熱史を推定するための近似式の導出」は、現在のプレート沈み込み帯における断層岩の鉱物組成の空間不均質を評価する上で重要な知見となりうる。また「プレートの沈み込みを考慮した間隙水圧の定常解の数値計算」は、今後実施する予定の摩擦・水理実験や地震サイクルシミュレーションにおいて極めて重要な情報である。このような進捗状況を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」という自己評価とした。
今後はまず、先に述べた間隙水圧の定常解についての研究を推し進め、得られた知見を論文としてまとめる。もし新型コロナウィルスの感染拡大が抑えられ、長期の実験出張が可能となれば、外部機関における摩擦・水理実験を実施し、断層岩の物性値の空間不均質の制約を行う。反応速度論を考慮した鉱物組成の空間不均質は既に得られているため、実験試料の鉱物組成は制約できる。摩擦実験では、先の間隙水圧の定常解を実験条件とする。今後も実験出張が困難な状況が続けば、先行研究にて報告されている物性値および上で得られた間隙水圧の定常解を入力値として、沈み込み帯における地震サイクルの数値計算を実施することを目指す。そのために、まずは粘土鉱物の脱水反応を考慮した一回のイベントの動的破壊問題を解くコードの開発を行う。その後、時間が許せば地震サイクルの計算へと拡張を試みる。
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