研究課題/領域番号 |
20J01284
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金木 俊也 京都大学, 防災研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 沈み込み帯 / 間隙流体圧 / モデル計算 / 摩擦発熱 / 断層掘削 / 炭質物 / ラマン分光分析 |
研究実績の概要 |
昨年度同様、新型コロナウィルスの影響により、学外への長期出張が困難な状況が継続している。そこで、当初の計画における目標の一つであった、断層運動に関連するモデル計算に焦点を当て、主に学外での活動を必要としない研究を実施した。 断層運動の数値計算を行う際、どのように間隙流体圧の初期分布を設定するかは重要な問題である。昨年度は、沈み込み帯における移流、流体物性値、脱水反応の影響を考慮したモデル計算を実施した。今年度はこれらに加え、分岐断層への流体の漏れおよびセメンテーションによる透水係数の局所的な減少をモデルに組み込んだ。その結果、透水係数の局所的な減少によって間隙流体圧の局所的な増加が引き起こされることがわかった。以上の成果は国際学術雑誌に投稿中である。 断層運動の数値計算では、得られた結果を天然と比較することが重要となる。断層帯の掘削から得た温度データを、均質媒質中に平面熱源が貫入した解(ソース解)と比較することで、剪断応力を推定する研究が数例報告されている。厚みを持った断層帯での動的弱化を考慮した場合、ソース解を近似解として用いることが妥当なのかを調査した。その結果、断層の厚みが熱拡散長より大きく、滑り時間が地震後に経過した時間より長い場合、良い近似解となることが分かった。以上の成果は国際学術雑誌 "Progress in Earth and Planetary Science" に2021年12月7日付で掲載された。 沈み込み帯の熱構造は、化学反応を考慮した鉱物の空間不均質を評価する上で重要な情報である。岩石の被熱履歴を評価する手法として、炭質物ラマン分光分析に着目した。得られたスペクトルを自動解析するコードを開発し、既往研究の課題であった個人バイアスの軽減を試みた。自動解析で得られたパラメータは既往研究と調和的であった。以上の成果は国際学術雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度同様、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、本研究の重要な要素の一つである「断層岩の物性値の空間不均質を摩擦・水理実験から制約する」ことに着手することはできなかった。 しかし本年度に取り組んだテーマのうち、「沈み込み帯における間隙流体圧のモデル計算」は、今後プレート沈み込み帯における断層運動の数値計算を実施する上で極めて重要な境界値である。また「断層掘削の温度測定による滑りパラメータの推定の妥当性」および「炭質物ラマンスペクトルの自動解析コードの開発」は、沈み込み帯における断層運動のモデル計算結果を天然と比較する際、重要な知見となりうる。 このような進捗状況を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」という自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、先に述べた間隙流体圧のモデル計算および炭質物ラマンスペクトルの自動解析の研究について、論文として出版することを目指す。 もし新型コロナウィルスの感染拡大が抑えられ、実験出張が可能となれば、外部機関における摩擦・水理実験を実施し、断層岩の物性値の空間不均質の制約を行う可能性がある。 今後も実験出張が困難な状況が続けば、先行研究にて報告されている物性値および上で得られた間隙流体圧の定常解を境界値として、沈み込み帯における地震サイクルの数値計算を実施することを目指す。また、一回のイベントに関しては、摩擦発熱による断層弱化を考慮した断層帯における歪集中のモデル計算を実施しつつあるため、こちらの研究も並行して推し進める。
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