昨年度同様、新型コロナウィルスの影響により、学外への長期出張が憚られる状況が継続していた。そこで、当初の計画における目標の一つであった、断層運動に関連するモデル計算に焦点を当て、主に計算機を用いた研究を実施した。 まず、昨年度から継続して実施している沈み込み帯における水理モデルの研究では、透水係数の局所的な減少によって間隙流体圧の局所的な増加が引き起こされることから、透水係数の減少を引き起こす機構がスロー地震の発生過程において重要である可能性を指摘した。以上の成果は国際学術雑誌 “Journal of Geophysical Research: Solid Earth” 2023年2月7日に出版された。 次に、同じく昨年度から継続して実施している研究である、炭質物ラマン分光スペクトルを自動解析するコードを用いて岩石の被熱温度を推定する研究では、既往研究の課題であった個人バイアスの軽減および解析の簡易化を実現した。これらの成果は国際学術雑誌 “Island Arc” に2022年10月19日に出版された。同様の自動化をより高温領域に拡張するべく、新たなコードの開発にも取り組んでいる。 新たな研究課題としては、高速滑り時の断層帯における歪集中モデル計算では、先行研究の結果を再現するコードを自作するとともに、数値誤差が時間とともに成長することで解が不安定になることを明らかにした。また、今まで考慮されていなかった発展則を採用した速度状態摩擦則に支配される断層面における地震サイクルシミュレーションにも取り組んでいる。
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