本研究は,ナノ計測技術と分子動力学(MD)解析を融合させることで,固体・気体・液体の三相が重なり影響しあう固気液三相界線の物理機構を実験・理論の両面から原子スケールで解き明かすことを目的とする. 本年度の実験では,高配向性グラファイト-水界面に存在するナノスケールの気相を加熱し,その前後を原子間力顕微鏡によって観察することで加熱に伴う変化を調査した.その結果,気体分子が強く吸着して形成される非整列層と,数 nmの均一な厚みを持って存在するマイクロパンケーキの二種類の気相が観察された.加熱後の両者の挙動は大きく異なり,非整列層は表面が荒くなりその内部に多数の穴が形成される一方,マイクロパンケーキは三相界線が円形からジグザグな形状へと変化した.このように気相が変貌するメカニズムは,加熱に伴う気体分子の吸着・脱着現象と各々の気相の可動性の違いを考慮に入れることで,薄膜成長の観点から説明することができた.この結果は,固液界面のごく近傍における気体分子の物理を理解するための重要な知見である. MD解析では,グラファイト壁面上に生成された窒素ナノバブルに関する解析を行った.その結果,界面ナノバブル中の窒素分子密度に応じて接触角が変化することが明らかになった.応力計算を用いて固気・気液界面張力をそれぞれ算出した結果,気液界面張力の値は密度に対して殆ど変化しない一方,固気界面張力は前述した吸着層の影響を受けて大きく変化し,接触角の密度依存性を引き起こす原因になっていることがわかった.これらの値と熱力学積分法によって求めた固液界面の付着仕事を用いてYoungの式から接触角を定量的に算出した結果,ナノバブルの形状から直接測った接触角と良く一致した.この結果は,Youngの式が界面ナノバブルのような微視的かつ二種の流体で構成される系でも成り立つのかという本質的な問いに答える重要な知見である.
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