研究課題/領域番号 |
20J01321
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
矢口 甫 関西学院大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | シロアリ / 繁殖周期 / 表現型可塑性 / 炭化水素 |
研究実績の概要 |
ネバダオオシロアリにおけるグループサイズが増加する過程に着目し,女王の繁殖形質に見られる可塑性にグループサイズが及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.本研究課題は,行動生態学・化学生態学・分子発生学的手法を組み合わせ,グループレベルから生理・遺伝子レベルに至る3つのアプローチを計画している.まず,当該年度は化学生態学的な研究を実施した.ネバダオオシロアリの女王と王を対象に体表炭化水素の組成をガスクロマトグラフィー(GC)分析により調査した.実験室内で出現した交尾前の雌雄成虫,実験室内で営巣させた雌雄成虫(すなわち女王と王),および野外における女王をそれぞれ回収し,各個体について固相マイクロ抽出(SPME)法によるGC / FID分析を実施した.その結果,野外の女王において特徴的な炭化水素のパターンが検出された.実験室内で人為的に営巣させた場合,営巣4カ月目までの個体数は多くて20個体に限られる.一方で,野外の巣においては数百から数千の個体が存在している.そのため,ネバダオオシロアリの女王に特異的な体表成分はグループサイズに依存している可能性が考えられた.しかしながら,特徴的なパターンは見られたものの,炭化水素の成分同定には至っていない.今後,ガスクロマトグラフ質量分析計(GC / MS)を利用して,女王の体表成分に見られた特徴的な炭化水素成分の同定を試みる.また,加齢に伴って増加する化学成分である可能性を否定できないため,十分な個体数を分析することで女王の繁殖形質とグループサイズの関係性を精査する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は,行動生態学的な視点を元にグループサイズが女王の産卵数に及ぼす影響を調べる予定であった.この研究計画は実験室内で多数の巣を作製することが前提であり,雌雄成虫の出現ピークである4~6月に大量に作製する必要があった.しかしながら,当該時期は新型コロナウイルスまん延に対する緊急事態宣言が発令された時期であった.当初の計画通りに対象種を採集することができず,実験に必要な数の半分にも満たない巣しか作製できなかったため,研究計画を行動生態学的研究から2021年度に実施する予定だった化学生態学研究への切り替えを余儀なくされた.ただし予想だにできなかった社会状況下でさえ,SPME法によるGC / FID分析のプロトコルを確立したことは今後に繋がる重要な基盤と考えている.さらに,十分な解析個体数が確保できなかったが,女王の体表化学成分がグループサイズに依存して変化する可能性を見出せたのは大きな成果といえる.以上から,期待ほどではないが十分な結果を得られたものの計画案の進捗状況はやや遅れたと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り,本研究課題は行動生態学・化学生態学・分子発生学的手法のアプローチを軸に研究を展開させる.今後は,体表成分の詳細な分析をSPME法によるGC / FID法を元に実施するとともに,GC / MSを用いた成分の同定を試みる.また,社会状況を踏まえながら,研究資料(シロアリ)の採集に集中する.また,分子発生学的アプローチに着手すべく,当該種の遺伝子データベースを元に繁殖可塑性にかかわる遺伝子の同定を試みる.
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