研究課題/領域番号 |
20J01321
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
矢口 甫 関西学院大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | シロアリ / 表現型可塑性 / 繁殖周期 / 防衛行動 / 個体間相互作用 |
研究実績の概要 |
2021年度は行動生態学的な研究を強力に推進した.本種のコロニーを野外から大量に採集し,そこから出現した雌雄成虫を用いて初期コロニーを作製した.当該年度は実験に用いる巣を大量に作製することができた.人為的に営巣させた後30日ごとに卵の数をカウントしたところ,産卵は営巣後30日目で生じるものの産卵はその1回であると示唆された.これまでの観察結果から,営巣後50日目には卵と初齢幼虫が主要なコロニー構成員であるのに対して,営巣後100日目では不妊カーストとして兵隊が巣内に出現する.初期コロニーの雌雄生殖虫は,産卵と巣の防衛を両立しているが,兵隊の出現をきっかけに防衛をしなくなると考えられる.そこで,それを確かめるために,営巣後50日目(兵隊出現前)と100日目(兵隊出現後)における,雌雄生殖虫による防衛行動を観察した.この際,他個体の存在が防衛行動に与える影響を考慮し,各時期において幼虫の除去する処理区と兵隊を除去する処理区を作製した.その結果,雌雄生殖虫による防衛行動の頻度は,他個体の存在にかかわらず,営巣後50日目と比較して100日目において有意に低下することが示された.このことから,雌雄生殖虫による防衛行動の可塑性は個体間相互作用によって制御されておらず,営巣後の経過日数(生殖虫の加齢)に伴って次第に低下すると考えられる.ただし,繁殖と防衛のトレードオフは観察されなかったことから,繁殖能力を低下させる要因は攻撃性と別にある可能性が高い.今後は,繁殖形質の可塑的な変化に及ぼすグループサイズの効果を探るために,成熟コロニーの雌雄生殖虫を対象とした行動解析を行うとともに,遺伝子解析のアプローチから探る予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は,行動生態学的な視点を元にグループサイズが女王の産卵数に及ぼす影響を調べた.その結果,繁殖と攻撃の関係について行動レベルでの情報を整理することができた.今回得られた行動レベルの知見と2020年度に得たデータを元に,今後実施を予定している詳細な遺伝子解析に着手できる手筈が整った.現在までに,次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq解析)を予備的に進めることができた.このことは,2022年度に実施予定である遺伝子解析を加速的に進めるための,試金石になった考えている.以上から,期待以上の結果が得られたとともに今後の研究の大きな指針になった.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り,本課題は行動生態学・化学生態学・分子発生学的手法のアプローチを軸に研究を展開させている.今後,野外から大量にシロアリを採集し,初期コロニーを継続的に作製する.また,雌雄生殖虫を対象としたRNA-seq解析を行うことで,課題に対して遺伝子の観点からアプローチする.得られた遺伝子情報についてバイオインフォマティクス手法を駆使し,繁殖と防衛を支配する原因遺伝子をスクリーニングする.さらに,上記の原因遺伝子を対象に分子発生学的手法を用いた機能解析を実施する.行動生態学・化学生態学・分子発生学的な解析結果を包括し,投稿論文として纏め,ハイグレードな国際誌への掲載を目指す.
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