研究実績の概要 |
本研究の初年度で行った内容は、解析に用いるデータセットの構築とそれを用いた疾患関連解析であった。データセットに関して、理化学研究所生命医科学研究センターに保管されている約20万人のバイオバンクジャパンのデータから、本研究で取り扱う心房細動のサンプルと比較を行うためのコントロールのサンプルデータを抽出した。疾患との関連を調べるゲノムワイド関連解析を行うにあたり、サンプルデータのクオリティーチェックを行って、最終的に9,826 人の心房細動のケースと140,446 人のコントロールを対象に解析を進めることとした。次に、解析で用いるジェノタイピングデータの情報量(解像度)を向上させるため、ジェノタイピングされていない欠損データを、外部のシークエンスデータを利用して統計学的に推測し補完するインピュテーションの方法を実施した。これにより、アレル頻度が1%未満の遺伝子多型(バリアント)を含めた16,817,144のバリアントデータを構築することができた。このようにして得られたデータセットを用いて心房細動のケースとコントロールサンプルでゲノムワイド関連解析を実施した。結果は、心房細動の発症と関連する31の疾患感受性領域を同定することができ、そのうち5つはこれまで報告のない新規の領域であった。これらの新規領域では、心筋症の患者で報告されているバリアントが含まれていた。さらに、バイオバンクジャパンのデータに加えて、ヨーロッパ人のゲノムワイド関連解析の結果と統合したメタ解析も行った。その結果、同定した疾患感受性領域は150まで増やすことができた。同定された領域内のバリアントは、心臓の発生や発達に関連する遺伝子、また心筋組織の構造や収縮機構に関連する遺伝子に集積しており、これらの遺伝子は心臓の組織で特異的に発現していることも分かった。
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