研究課題/領域番号 |
20J01343
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮澤 一雄 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 心房細動 / ゲノムワイド関連解析 / 精密化医療 |
研究実績の概要 |
バイオバンクジャパンのデータを用いた心房細動のゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を、海外の心房細動GWASの結果とメタ解析を行うことで、非常に多くの遺伝的多型の同定が可能となった。本年度では、これらの関連解析の結果を用いて、疾患発症の予測に有用とされるポリジェニックリスクスコアの作成を行った。しかし、疾患の遺伝構造は民族間によって異なることが知られており、心房細動のポリジェニックリスクスコアにおいてもその性能には民族特異性があることが報告されている。そこで各民族で行ったGWASとそれらを組み合わせでメタ解析したGWASを作成し、それぞれのGWASからポリジェニックリスクスコアを算出し、バイオバンクジャパンのデータで性能評価を行ったところ、これまで言われていた民族特異性に加えて、多民族かつサンプルサイズが最も大きいGWASでのポリジェニックリスクスコアが他のGWASと比べて最も優れた予測性能を示すことが示された。更に、疾患自体の予測のみならず、様々な形質や臨床情報との関連を調べると、心房細動のポリジェニックリスクスコアが疾患の発症年齢や心原性脳梗塞の予測に有用であることが分かった。また、バイオバンクジャパンにある死亡データとの関連も調べると、心血管疾患による死亡と有意な関連があり、特に脳卒中による死亡との強い関連が示された。これらの結果は、民族横断的なゲノム解析を行うことで、疾患の予測のみならず関連する病態や合併症の予測が可能になることを示しており、個人のゲノムデータに基づいた精密化医療の実現に大きく貢献するものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に施行した心房細動のゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果から、ポリジェニックリスクスコアの作成を行なった。心房細動の疾患予測に関しては、これまでのポリジェニックリスクスコアに関する研究で報告されている通り、有用な予測性能を示すことができたが、それに加えて心房細動と関連する形質や疾患との関連も見出すことができた。さらに、心房細動のポリジェニックリスクスコアと死亡データとの関連解析を行うと、心血管疾患や脳卒中による死亡の予測に有用であることも分かり、このような結果はこれまでに報告がない事からも、本研究の独自性を示すことができた。またこれらの結果は、実際の診療へ応用するためのエビデンスを蓄積するものであり、ゲノムデータを用いた個別化医療もしくは精密化医療へとつながると考えられ、進捗状況としては研究計画通りに進んでいると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定される遺伝的多型の多くは遺伝子をコードしないノンコーディング領域に存在しているため、疾患の発症にかかわる遺伝子や転写因子などは十分解明されておらず、心房細動のGWASにおいても同様の状況である。そこで、GWASから得られた疾患と関連する遺伝的多型をトランスクリプトームやエピゲノムのデータと統合したマルチオミックス解析を行うことで、疾患の病態メカニズムに関わる遺伝子や転写因子の同定を行う。この解析により心房細動の治療ターゲットとなる遺伝子の候補を抽出し、さらに薬剤による遺伝子発現量の変化をした収載したデータベースを参照することで、ゲノム解析に基づいた治療薬剤やゲノム創薬へと結びつけていく。
|