研究課題
本研究課題では、膨潤しない生体適合性に優れたインジェクタブルゲルの作成を目的とする。本年度においては、ゲル膨潤と逆行するゲル収縮に基づき発現する構造について解析を行った。本研究では、4 分岐構造を有する2 種類のpoly(ethylene glycol) (PEG) を混合することで形成するテトラPEG ゲルを使用した。ここで、ゲル化臨界付近の低濃度(10 g/L) で作成したゲルをdilute ゲル、高濃度(60 g/L) で作成したゲルをconventional ゲルと定義する。昨年度の研究において、ゲルを純水に浸漬させると、conventional ゲルでは従来通り膨潤する一方、dilute ゲルでは収縮することが判明し、高分子ゲルで観察される膨潤現象とは異なる脱膨潤現象を見出した。そこで、本脱膨潤現象を基発としゲルの内部構造が変化すると予測し、共焦点レーザー顕微鏡を用いてこれらゲルの内部構造評価を行った。Conventional ゲルでは特徴的な構造が観察されなかった一方、dilute ゲルでは三次元的な網目様の構造が観察された。これは、ゲル収縮に伴うPEG 網目の濃縮である。本研究課題では、PEG のみを構成成分とするゲルからなる相分離現象を発見した。このPEG 網目濃縮に伴う相分離はゲルの離水を促すため、ゲルは疎水化することが推察される。そこで、疎水性粒子溶液にゲルを浸漬させることで、粒子の吸着挙動を観察した。Conventional ゲルでは従来の知見通り、粒子はほとんど吸着しなかった一方、dilute ゲルでのみ、ゲル表面への吸着が確認された。つまり、ゲル収縮を基発とする本相分離現象は、ゲルの疎水化を誘発することが示唆された。今後は、より詳細に、本相分離現象の解明を行なっていく。
2: おおむね順調に進展している
高分子ゲルの新たな相分離現象を見出し、その特徴を明確化することに成功したため。
前年度は、ゲルの非膨潤特性、収縮特性に着目し研究をおこなった。本年度は、分岐数、高分子濃度、結合率などの高分子パラメーターを制御し、収縮挙動の制御、および、その収縮によって発現する疎水化特性についても解析を行う。本収縮挙動は、ゲルの弾性率を支配するパラメーターに由来するため、同じ高分子でも、架橋点数に由来、つまり、テトラペグの分岐数が多いほどその傾向は強くなると考えられる。従来、 テトラペグゲルを作成する際、4分岐のペグを用いていたが、8分岐、16分岐のような、デンドリマー型のペグを使用し、分岐数が収縮挙動に与える影響を観察する。さらに、非等量的に混合し、結合率を制御した際の収縮挙動についても観察することで、具体的なパラメーターを決定す る。次に、本収縮挙動がゲルの疎水化を誘発することを見出したため、この疎水化現象により発現する薬物のリリース性についても検討を行う 。疎水性薬物のモデル物質として、一般的な蛍光分子であるフルオレセインをゲルに包埋し、収縮の有無における薬物担持性を調査する。このように、薬物をつなぐリンカーをゲルに介することなく、ゲルに長期に内包することができれば、低濃度ゲルにおける薬物のスローリリースを実現でき、低濃度ゲルほど薬物のリリースが早いという既存概念を覆すことも可能である。
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bioRxiv
巻: - ページ: -
10.1101/2022.01.31.478579
arXiv:2202.09754
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