研究課題
未成熟のカジメの胞子体を7月に採集し人工成熟を試みたが, 3ヶ月経過しても胞子体は成熟に至らなかったため,天然で成熟した胞子体を採集し,配偶体の系統保存株を作成した。その結果,56個体の胞子体から,雌雄配偶体をそれぞれ5~8株程度単離し,計300株程度の系統保存株を作成した。作成した配偶体系統保存株の遺伝子型を調べるために,Itou et al. (2012), Akita et al. (2018) およびAkita et al. (2020) で報告されている12のマイクロサテライトマーカーを使用し,雌性配偶体 41個体,雄性配偶体43個体の計84個体のアレル長を決定した。その結果,同じ親に由来する配偶体でも遺伝子型が一致する個体は僅かである可能性が示された。さらに,同じ親に由来する配偶体間の遺伝子型の多様度(ハプロタイプ多様度h)は,全体個体の多様度と比較してほとんど変わらなかった。コンブ類の配偶体では,しばし無性生殖により胞子体を形成することがあるため,交雑実験により得られた胞子体が配偶体の雌雄の交雑に由来する藻体であることを確認する必要がある。Lipinska et al. (2015)およびZhang et al. (2018)で報告されているコンブ類の近縁種のマーカーと,遺伝子データベースに登録されているカジメ類のゲノムデータをもとに,カジメ類の性決定領域を特異的に増幅させる遺伝子マーカーを作成した。カジメ類の雌雄配偶体の系統保存株をサンプルとしてPCR反応を行ったところ,雌雄それぞれで特異的な反応が得られた。次年度の交雑実験と野外移植を行う準備を整えることができた。
3: やや遅れている
2020年度は研究開始後2週間足らずで2ヶ月の緊急事態宣言が発令され入構制限がかかった。研究関連の業務は培養株の管理など最低限に制限されたため,予定していた野外採集を実施することができなかった。そのため,研究計画を後ろ倒しにし,配偶体の系統保存株作成,遺伝型決定および交雑実験を目的として,研究を実施した。
今後は,単離し遺伝子型を決定した配偶体の系統保存株を用いて遺伝的多様性の異なる実験区を作成する。まずは,実験室内でストレス耐性を検証する。代表的なストレスとして,高水温耐性と創傷からの回復速度を調べる。高水温耐性は,光合成速度とヒートショックプロテインの発現量で評価する。回復速度は,人為的に藻体を切断し,成長量を調べる。 緊急事態宣言による研究の遅れのため2020年度実施できなかった野外への移植も,2021年度の冬に実施する。移植後は成長特性と生理特性を調べる 。
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Phycologia
巻: 60 ページ: 170~179
10.1080/00318884.2021.1885246
Phycological Research
巻: - ページ: 1~5
10.1111/pre.12456