研究実績の概要 |
植物の形質(形態的・生理的な特徴, 葉の面積や光合成速度など)は、個体の資源利用戦略(獲得や保持など)を介し、ある環境における適応度に大きく影響する。したがって、形質を定量化することで、種や個体群の分布環境を推定できる可能性がある。しかし、種多様性が極めて高い熱帯林においては検証が十分に進んでいない。本研究では、東南アジアの植生決定に大きく関わる標高と土壌水分の2要因に着目し、それぞれの環境傾度において種の分布と形質との関係を検討した。今年度は海外での現地調査が困難だったため、取得済みのデータを用いて解析を行った。 ボルネオ島キナバル山の熱帯山地林で優占するブナ科樹木12種を調べた結果,葉が厚く、葉面積当たりの乾燥重量が高い樹種が、より高標高、かつより幅広い標高帯に分布していることがわかった。また、東北タイの熱帯季節林で優占するフタバガキ科樹木12種を調べた結果、葉が厚く、葉身と葉柄に水を蓄えることで乾燥ストレスを回避する戦略をもつ樹種が、より乾燥する土壌に出現することがわかった。以上の結果から、葉の形態形質を調べることで、種の生育に適した標高や土壌環境を予測できることがわかった。これらの成果は、形質を用いて熱帯樹木群集の決定機構を解明する世界的な取り組みに貢献するのみならず、将来の気候変動に対して脆弱な種や個体群、地域の特定に役立つものと考える。
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