研究課題/領域番号 |
20J01411
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
樋口 洋子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 潜在学習 / 記憶 |
研究実績の概要 |
われわれは、自分をとりまく世界の情報を知らす知らずのうちに学習している。この意識の伴わない学習を、意識的な学習(顕在学習)と対比して、「潜在学習」と呼ぶ。潜在学習は自動的に起こり、その学習量には制限がないか、少なくとも顕在学習に比べてずっと多い。潜在学習の研究により、記憶や学習に関するまだ見ぬ重要なメカニズムやその神経基盤が明らかになる可能性がある。本研究は、学習内容の統合という視点から、潜在学習における学習内容の変容を明らかにすることを目的とする。学習直後には正確だった記憶は、時間経過とともに、細部が抜け落ちたり、因果関係が逆転したり、異なる記憶が混ざったりする。そのような現象は、関連する記憶の統合によって引き起こされている可能性がある。本研究では、記憶の統合によって引き起こされる現象を実験的に観測し、そのメカニズムを明らかにし、神経基盤を同定する。 初年度である令和2年度は、本研究の中心テーマである潜在学習における統計的規則性の統合メカニズムの解明のため、最適な心理物理実験系を開発し、一連の実験データを取得し、今後の研究の基盤となる知見を得た。 第一に、系列情報の潜在学習では、時間経過によって正順と逆順の区別がつきにくくなることを発見した。この結果は、時間経過とともに正順と逆順の記憶が統合されたことを示唆し、潜在学習において系列の構成要素に基づく記憶の統合が起きるという予測を支持するものである。さらに、学習内容の統合に関わる神経基盤を明らかにするため、系列を観察しているときの脳活動を、学習直後と24時間後にfMRIによって測定し、データを解析中である。 第二に、系列情報の潜在学習だけではなく、空間情報の潜在学習においても記憶の統合が起きることを示唆するデータを論文としてまとめ、その成果は国際学術誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は、潜在的に獲得した学習内容の統合過程とその神経基盤を同定し、メカニズムを解明することである。初年度である令和2年度は、申請者がこれまでに行ってきた潜在学習研究をもとに、時間経過による学習内容の統合を定量化するための最適な心理物理実験系を開発し、実験データを取得した。 第一に、系列情報の潜在学習では、時間経過によって正順と逆順の区別がつきにくくなることを発見した。この結果は、時間経過とともに正順と逆順の記憶が統合されたことを示唆し、潜在学習において系列の構成要素に基づく記憶の統合が起きるという予測を支持するものである。さらに、学習内容の統合に関わる神経基盤を明らかにするため、系列を観察しているときの脳活動を、学習直後と24時間後にfMRIによって測定し、データを解析中である。 第二に、系列情報だけではなく、空間情報の潜在学習でも学習内容の統合が起きると予測した。類似した空間パターンを潜在的に学習すると、これらの空間パターンを統合したマップが形成されると予想した。実験の結果、空間パターンの統合によって広範囲に学習効果が般化するようになり、典型的な空間パターンだけではなく、大きく歪んだ非典型的なパターンに対しても学習効果が般化することを発見した。この成果は国際学術誌Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognitionに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に確立した潜在学習における学習内容の統合を捉える心理物理実験系を用いて、データ取得を完了させる。その後、fMRIによる脳活動測定を実施する。まずはパターンの潜在学習に関与している領域を同定する。学習パターンを観察しているときの脳活動を、学習直後と24時間後にfMRIによって測定し、脳活動の変容を明らかにする。さらに、脳活動と心理物理実験のデータの相関を詳細に検討する。これらのデータを国内外の学会において発表し、改良のための意見を得る。得られたフィードバックを踏まえて必要な場合は追加実験・解析を行い、最終的な成果を論文として執筆し、国際学術誌に投稿する。
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