本研究の目的は、競技者に対する貧血・鉄欠乏予防のための栄養戦略を立案することである。この目的を達成するための栄養素として本研究では中鎖脂肪酸に着目し、これまでに動物実験とヒト実験を実施してきた。 今年度は、大学に所属する女子サッカー選手20名を対象にラボベースの実験を実施した。対象者のうち、6週間にわたり中鎖脂肪酸(18g/日:ゼリータイプ)を摂取する中鎖脂肪酸摂取群とn-9系脂肪酸(18g/日:ゼリータイプ)を摂取するコントロール群の二群に分類し、介入期間前後にフィールドテスト(前後半30分間のサッカーの試合)を設定し、運動前後の血液検査を実施した。その結果、介入期間中の食事摂取量については、両群ともに大きな変化がみられなかった。中鎖脂肪酸摂取群において、体重は減少傾向がみられ、体脂肪率の有意な減少が認められた(p < 0.05)。n-9系脂肪酸群では、これらの変化は認められなかった。また、試合前後における血液検査では、鉄栄養状態を反映する項目(血中ヘモグロビン濃度、血清鉄濃度、血清フェリチン濃度)については、両群ともに有意な変化は認められなかった。一方で、鉄を調整するホルモンであるヘプシジン(肝臓から分泌される鉄調節ホルモン)の運動前後の変化量については、中鎖脂肪酸摂取群において介入後に減少する傾向が認められた。本研究では介入前後の腸内細菌叢も評価しており、鉄代謝との関連について検討を行う予定である。
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