本研究の目的は曲面の写像類群の間のバーチャル埋め込みおよび擬等長埋め込みと曲面の位相幾何学との関係を明らかにすることである。 トーラスの写像類群の球面の写像類群へのバーチャル埋め込みの考察を曲面のパンツ分解や曲線系を用いて行った。特殊ではあるが非自明な例でトーラスの写像類群から球面の写像類群へのバーチャルな埋め込みが存在しないことを確認した。しかし例の一般化を試みたが叶わず、2021年度の進捗状況から有意義な進展があったとは言い難い。 また、ブレイド群の勝手なバーチャル埋め込みが既知のバーチャル埋め込みの合成から誘導されるかという問題を曲面上の曲線族を用いて考察し、特殊な例では誘導されることを確認した。一般化のためには部分曲面の擬アノソフ写像と呼ばれる写像類がブレイド群の生成元の冪の像としてあり得るか、という問題を解く必要があったが、この問題を年度内に解決できず、残念ながら一般的な結果を得ることができなかった。問題をより精緻に捉えることができたと言う意味では進展があった。 さらに、写像類群の間に擬等長埋め込みが存在するか否かを考察するため、部分群である直角アルティン群の写像類群への擬等長埋め込みを研究した。直角アルティン群のマーキング複体への作用を主に取り扱ったが、既存の研究を超える成果は得られなかった。ただし副産物としてMasur--Minskyの理論の一部、特にbounded geodesic image theoremの一部を向き付け不可能曲面について一般化することができた。
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