硫化カルボニル(COS or OCS)は対流圏で最も豊富に存在する大気硫黄化合物(約 500 ppt)であり、炭素循環やエアロゾル生成に関わる重要な物質である。しかし、COS 自体の対流圏動態に不明点が多いため、COS の成層圏硫酸エアロゾルへの硫黄供給量の推定や、COS を用いた全球レベルの一次生産量の評価は不確実である。この問題は、COS の濃度がほぼ一定であるにも関わらずCOS 生成量と消失量がバランスせず、COS 生成全体の約60%の起源が不明 (=ミッシングソースの存在)であることに起因する。そこで申請者は、自ら開発した分析手法を用いたd34S(COS)値の観測をより広域かつ高い時間分解能で実施し、硫黄同位体情報を大気化学輸送モデルの新しい制約条件とすることで、大気中COS に対する人為と海洋放出の寄与率を正しく反映した全球COS 動態モデルを開発することを試みる。 本研究の初年度は宮古島や小樽での硫化カルボニルの硫黄同位体比の観測を行う予定であったが、緊急事態宣言下において遠隔地での観測が実行不可能になった。そのため、1次元鉛直モデルを用いた硫黄循環解析を主に行った。COSに関する大気化学反応の最適化を実施し、二硫化炭素からCOSへの光酸化反応がこれまでのモデルでは考慮されていないことを発見した。この成果を国内の学会で発表した。また、オランダのグループにCOSの硫黄同位体比のスタンダードを共有し、国際的標準の整備も行った。
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