研究課題/領域番号 |
20J01453
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
有本 晃一 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 共進化 / 絶対送粉共生系 / イチジク属植物 / 共種分化 / 寄主転換 / 防衛形質 |
研究実績の概要 |
本課題では、イチジク属植物とその送粉者であるイチジクコバチ類の絶対送粉共生系において、その両者の形態や遺伝子情報の解析、天敵相(寄生蜂、アリ類、クロツヤバエ類)と防御形質の関連を調査することで、絶対送粉共生系を中心とした生物間相互作用が共進化に与える影響を評価し、植物と昆虫の共進化機構を解明しようとしている。 2020年度は、徳之島、沖縄島、石垣島において主要天敵相の調査を行い、日本と台湾で得ていた既存の標本試料と合わせることで、イチジクコバチを捕食するアリ類やイチジクを加害するクロツヤバエ類の種構成を把握することに努めた。 アリによるイチジクコバチ類の捕食行動があった証拠として、430株の花嚢内および花嚢入り口付近を確認し、19種のアリを173回発見した。調査の結果、荒れた土地に生育するイチジク種と湿潤な環境に生育するイチジク種では、出現アリ種が大きく異なっていた。また、入り口を閉ざすタイプの花嚢を持つSycidium亜属のイチジク種では、花嚢内からアリを見出すこと自体が困難であった。このことから、各イチジク種上で見られるアリの種構成は各イチジク種の生育する環境に依存しており、アリの出現頻度の違いはアリに対しての防御形質の有無や有効性が影響している可能性が示唆された。 奄美大島から石垣島にかけての各島と台湾から374個体のクロツヤバエ標本を確保し、イチジク5 taxaから初めてクロツヤバエを見出した。多くは既知種であったが、未記載種が含まれることもわかった。多くのイチジク種の花嚢を調査したが、Sycidium亜属の花嚢からはクロツヤバエ類を見出すことができず、ハエ類に対する何らかの食害耐性を持つ可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、イチジク属植物とイチジクコバチ類の形態・遺伝子情報の解析に必要な中国やフィリピン産の個体を野外調査で得ること予定していたが、COVID-19の流行により海外渡航ができず、実施できなかった。また、沖縄島での調査を予定していたが、主な研究対象種の結実期(イチジクコバチ成虫の最盛期)である4~5月に野外調査を実施できなかった。そのため、野外でのサンプリングの機会が少なく、新規サンプルの確保が十分にできなかったため、予定に遅れが生じた。しかし、計画内容を変更し、既存標本の解剖や種同定によってデータを取得し、ある程度の成果を上げることはできた。よって、2020年度は予定通り計画が進まなかったが、ある程度の研究の進展もあったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
予定していた海外調査は中止し、国内調査のみ実施するよう変更する。海外産のサンプルは現地の研究協力者にお願いして、可能な限り入手できるよう努める。国内では、継続して南西諸島での野外調査において、分布調査やイチジクコバチ類の寄主選好性の確認、天敵相の確認を行いながら、遺伝子解析・形態観察用の試料収集を行う。 分布調査では、イチジク属植物の分布状況に基づいて共生系の生態分布を確認する。寄主選好性の確認では、イチジクコバチ類に異なるイチジク種から得た花嚢の匂いを嗅がせ選択させる実験を行う。天敵相の確認では、主要天敵として寄生蜂、アリ類、ハエ類の種構成・出現頻度の把握、捕食行動の観察を行う。 生態分布や寄主選択実験のデータは整理し統計解析を行う。また、イチジクの花嚢とイチジクコバチ類の形態計測を行い、各種間の形態的な違いを明らかにする。さらに、イチジクとイチジクコバチ試料から、遺伝子抽出を行い、系統解析や集団遺伝構造解析を行って、両者の進化過程を比較する。
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